第4話 守護につくかまいたち兄弟
だが、目の前で起きていることは、錦どころか人間のいるところでも滅多にない出来事になっていた。
『申し訳ありやせんでした、兄貴!!』
「謝罪するのはわてじゃねぇ! こっちの人間の兄さんに、だ!!」
『へぃいい!?』
カワウソ、じゃなくてかまいたちと言う妖怪の三匹が水緒に呼ばれて土下座しまくっているのだ。帰り道の手前、見つけたのとついでに辰也にも謝罪させねばと同席しているわけだが。
服装は水緒とは当然違うが、なんだか戦隊モノを意識したような風合いだった。
「鎌で傷をつけるのとかは、まだいいにしても……薬で癒すのが甘い! 好みの霊力が欲しいからって、ちゃんと癒せなきゃ今の世は通じねぇんでやんす!」
『……へい』
妖怪なのに、普通の会社員とあんまり変わらないような叱責の態度。いや、今も昔も住む世界云々で違わないのかもしれない。
とにかく、三匹のかまいたちの兄弟達は水緒に叱られてから今度は辰也の方に来て平謝りしてきた。
「ほんと……ほんと兄さんにはすんませんでした!!」
「ずっと昔っから、薬は調合は頑張っていたんですけど! 全然傷痕消せなくて!」
「あちきは長男ですのに、弟達を育てられなくてぇ!!」
『本当に、申し訳ありやせんでしたああああ!!』
「え、いや、その」
人間よりも小さい、しかも妖怪に謝罪される日がまさか来るとは思わず。おまけに、辰也が持ってるらしいかまいたちが好む霊力を欲しいがために、傷を作られた本人達とは言え。
正直、謝られても実感がわかなかった。
「……まあ、そこの兄さんはわてらかまいたちが好む霊力を持ってるでやんす。惹かれるのは仕方ないにしても、薬に出来が不十分なのは良くない。
『は、はぃいいいいい!!?』
コントかと思うくらい、見ていておかしくなってしまいそうだったが。真剣なことに変わりないので、辰也は膝を折ってかまいたち兄弟の前に目線を合わせた。
「俺の傷は治ったし。まあ、次から傷が残らないようにしてくれたらいいよ。その、俺の霊力っていうのが君達の飯になるんだろ?」
「飯……のようなもんでやんす。昔とは違い、霊力以外にも心の欠片で得る食いもんで腹は満たせられるが、妖気はそれだけじゃいけねぇ。ただ、短命の人間を殺してまでは御法度でやんす」
「けど……また兄さんを標的にしてもいいんすか?」
「転びますよ?」
「怪我しますけど、薬の調合頑張ります!」
「なら、いいよ」
今までの不幸を全部帳消しに出来るわけでもないが。元々人が良すぎるとも言われてた辰也の性格上、誠心誠意謝罪してくれた相手を無碍な扱いには出来ないのだ。
三匹の頭を交互に撫でてやっていると、彼らの後ろにいた水緒は懐に入れてたタバコをふかし始めた。
「ひとが良すぎるぜ。
「え、契約?」
「守護霊とかは聞いたことはあるだろう? それのわてら妖がなるだけでやんす。奈雲、異論は?」
「ないっす! 辰也の兄さんが浄土に行くまで。俺ら三兄弟が兄さんの霊力を守るでぃ!」
「うっす!」
「おお!」
水緒の話に、異論を持たなかった三匹は。曲げてた腰をしっかりと伸ばして三匹それぞれ右手らしい前足を辰也の額に当てた。
「我らが守護」
「我らの誓い」
「我らの願い」
『今ここに開眼せん!!』
三匹の声が重なって、一瞬前足が光ったかのように見えたのだが、そのあとは何も起こらず。自分の髪を触っても変化はなかった。
「ご安心くださりませ、辰也殿」
「我らとの契約は辰也殿を守護せんがため」
「他所のかまいたちに群がれぬよう、誓約を課したまでです!」
「……じゃあ、俺が怪我するのは?」
『多少のご愛敬!』
「そこは否定しろでやんす!』
『あう!?』
またコントのような掛け合いが始まってしまったので、しばらく観戦状態になってしまったが。
守護すると言ってもついてくるわけではないらしいので、奈雲達や水緒とは錦の端まで一緒に歩いて。ただ、あの
「霊力をたんまり食わせてやっているんだ。道案内くらいお手の物でやんす」
「
「了解っすね!」
「では、また」
そして、その日以降随分と久しぶりに半袖のシャツに袖を通せたり。
転ぶことがあっても、切り傷が出来ることはまったくなく。
奈雲達がきちんと水緒の指導を受けたお陰か、丸の内での生活も順風満帆に過ごすことが出来そうだった。
「うーん。やっぱり手土産持っていきたいなあ?」
会社の屋上で一人ごちてた辰也だったが、誰もいないのでちょうどよかった。新入からは遠ざかった社員ではあるが、暑さの酷い名古屋でわざわざ屋上に出る人間は少ない。
ただ、喫煙所は辰也が吸わない人間なので行きたくない。のと、せっかくのおろしたてのシャツに臭いをつけたくないからだ。
さておき、楽庵に行こうにもどう言った手土産を持って行こうか悩んだ。単純に水緒に会いに行くなら奈雲達を呼べば連れて行ってくれるだろうが。出来れば、楽庵にいる水緒に会いに行き、店主や湖沼にも感謝の意を込めて手土産を渡したかったのだ。その話を聞かれまいと、あえて屋上に来たのだがもう悩んでいる暇もない。
「……奈雲さん達〜?」
『はーい!』
こっそり呼んだら、本当に出てきた。
けど、時間もないので三匹に頼み事をしてから、その晩の仕事上がりの前に買った手土産を持って、辰也は三匹と一緒に楽庵に向かうことにした。
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