第21話 撮影 〜佐倉視点〜
珍しく色気のある子が居たから声を掛けてみた。それが女装ってのには少し驚いたけど、性別は問題じゃない。
色気があればどちらでもいい。
きっと女装していなくても、彼は色気に溢れているはず。
——そう、思って期待して来たんだけど……。
音無くんはヘラヘラしているだけで、ちょっと期待外れだった。
まあ、こんな日もある。
でも、折角来たんだし学校を堪能して、部活シーンでも撮って、ちゃちゃっと終わらせよう。
そう思っていた。
「ここです」
軽音部……そうか、彼は音楽をやっているのか。色気云々は置いといて、そこそこイケメン、プラス、音楽。
なかなか良い画が撮れそうだ。
——しかし部室に入り、私の期待は大きく裏切られた。
良い意味で。
私の目に飛び込んで来たのは、溢れんばかりの華をまとった少女だった。
こ……これは。
超ラッキーだ!
こんな所に金の卵が!
やっぱり私は持っている。
色気を求めて、華を撮る。
悪くない。
悪くないどころか、大化けするでしょこの子!
「あなた、名前は?」
「衣織です。窪田衣織」
「衣織ちゃんね、よろしく」
——音無くんが、準備をしている間、部室を見渡した。
衣織ちゃんに気を取られて気付かなかったけど……この部……粒揃いだ。
衣織ちゃんという強く輝く華に惹きつけられて来たのだろうか。
ヤバい……こんなに胸が躍るのは久しぶりだ!
軽音という舞台も悪くないし、かなりいい画が撮れるはずだ。
そして実は……私も大学までずっと音楽をやっていた。
パートはギターだ。
プロギタリストかプロカメラマンか、本気で悩んでいた時期もあった。
でも、アン・メイヤーという少女の動画を見てギターの道は諦めた。
敵わないと思ったからだ。
今ではアン・メイヤーは世界的に有名なギタリストになっている。
私の目に狂いは無かったと言う事だ。
それでも私は音楽が好きだ。
今もジャケットや音楽雑誌の表紙など、音楽に関わる仕事が多い。
この中に、私の厳しいお眼鏡にかなう子はいるのだろうか。
色んな意味で楽しみだ。
「用意出来ました」
音無くんのセッティングが完了した。おっと……彼もギタリストだったのか。
でも残念だったね。私のギターを見る目は厳しいよ!
まあ、お手並み拝見させてもらおう。
——音無くんが無造作にギターをかき鳴らした。
「……」
……雑にコードをかき鳴らしただけなのに、身体の芯にガツンと響いてくるものがあった。
な……何? ……この色気のある音。
そしてカメラを構えて、彼を見た。
……音無くんは、信じられない事に、直視出来ない程の色気をまとっていた。
な、な、な、な、なんじゃこりゃ!
さっきとまるで別人だよ!
めっちゃくちゃいい男になってるじゃん!
これだよ、これ!
私が求めていたのは!
この色気だよ!
……あれか……音無くんは見られる事で、色気が出ちゃうタイプか……。
イイね!
衣織ちゃんと言い……プロ向きじゃん!
珍しくテンションが上がりっぱなしだった。
そりゃ、こんな金の卵を見つけたら誰でもテンション上がるでしょ!
——でも、これは、ただの序章だった。
正直に言おう。
私はプロとしてあるまじき失態を犯した。
私は、音無くんのギターに気をとられて、シャッターを切るのを忘れていたのだ。
テクニック、グルーウ、フレーズ、音色。
そのどれもが私を惹きつける。
え……これって……アン・メイヤー以上じゃないの?
こんな子が、高校生だなんて反則だ。
私は彼のギターに魅了されっぱなしだった。
身体の芯からシビれるような、ギタープレイだった。
音無くんのギターでお腹いっぱい気味だった私を、更なる衝撃が襲う。
圧倒的華……。
衣織ちゃんは、音無くんのギターに負けない圧倒的歌唱力と華をもっていた。
そして私はまた、プロとしてあるまじき失態を犯した。
私は、衣織ちゃんの歌に感動してしまい、シャッターを切るのを忘れていたのだ。
……ここ、高校の軽音部だよね?
あまりの異次元の実力に、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。
ていうか……この2人が一緒にやってるのって……反則じゃね?
どうやって出会ったの?
君たちの出会いは奇跡だよ奇跡!
世界を股にかけるピアニスト窪田学と、世界を股にかけるギタリスト音無仁が、同じバンドだったと聞いたことがある。
そんなエピソードを思い出した。
うん素直に感動した。
でも……肝心の写真はほとんど撮れていなかった。
私がまともに写真を撮れるまでに、あと数曲を要したのは内緒の話だ。
————————
【あとがき】
佐倉さんもハマっちゃいました。
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よろしくお願いいたします。
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