第2話 いつもの1日

 今日は朝からトラブル続きだけど、学園内はいつも通り平和だった。


「ちっす、なる


「おはよう、ユッキー」


 彼は幸村信之ゆきむらのぶゆき。僕の親友であり幼馴染だ。


「ユッキーはいつも早いね」


 物心ついた頃からずっとユッキーって呼んでいる。


「いや、今日はお前が遅いんだって」


 そうでした……今日は僕が遅かったんだ。


「おはよう鳴、遅かったね。何かあった?」


「おはよう愛夏」


 前回ちらっと話したけど……なんの因果か元カノで幼馴染の愛夏も同じクラスなのだ。新学期、まだ別れたてホヤホヤでクラス発表を見た時は、ガチで転校か休学を考えた。


「いや、特に何も……」


「どうせボーッと歩いてて電柱にでもぶつかったんだろう」


 凛が僕の右肩を指差しながら容赦のない言葉を浴びせてくる。


 今気づいたが馬鹿力で掴まれた上着の右肩がシワになって、ほつれていた。


「ちげーよ!」


「じゃぁそれは何なんだよ?」


「う……」


 痛いところを……本当のことを言って騒ぎになるのも嫌だったので、話を合わせた。


「ぶつけました……」


「最初から素直に言えよ」


「はい……」


 一応最初から素直には言ってたんだけど……。


 なんて話しをしていると予鈴が鳴った。



 ——ホームルームだ。


 いつもは先生のつまらないギャグを聞いて終わりなんだけど……今日はちょっとタイムリーな話題だった。最近学校近辺で、ひったくりと外国人によるナンパが多発しているから、気をつけるようにとのことだった。


 きっとアイツらの事だ。


 反省してくれていたら良いけど……と願う僕だった。





 ——昼休み。


 当然、衣織ともその話題になった。


「え、なんすか? 師匠、ナンパ野郎撃退したんですか?」


 僕の事を師匠と呼ぶ彼女は、衣織と僕で結成したバンド『織りなす音』のベース。


 明石時枝あかしときえだ。


「音無くん……男らしいところあったのね」


 こちらの彼女は菅沼穂奈美すがぬまほなみ


『織りなす音』のドラムだ。


 2人は衣織と僕のユニット時代のライブを見て、僕たちとバンドを組むために、軽音部に入部してくれた。


 2人とも中々の実力者だ。


「2人にも見せてあげたかったわ」


 衣織は時枝と穂奈美に、身振り手振り混じりで僕の武勇伝を語りはじめた。


 この手の話。


 多くの場合、脚色されて大仰になる。


 衣織も例に漏れず、僕の柔道の実力が、オリンピック出場選手クラスにまで誇張されていた。


 昼休みはこのメンバーで、いつも屋上ランチだ。




 ——そして放課後の部活タイム。

 

 今日の軽音部室は、僕の武勇伝でもちきりになっていた。


 何故……。


「ウチが話しちゃった。テヘ」


 て……テヘペロだと……。


 このテヘペロを使いこなす、神に選ばれた愛くるしさを持つ彼女は、我が軽音部の部長。


 川瀬結衣かわせゆいさんだ。


「ごめんね鳴、結衣に話した私がバカだったわ」


「いや、気にしないでいいよ」


 まあ、いつもこんな調子で、僕はよくネタにされる。


 でも、みんな音楽は真剣で熱い。


 軽音部は僕の大切な場所だ。



 ——部活が終わるといよいよ放課後デート……と行きたいところだが、そうは問屋がおろさない。


 部活が終わると、その日の反省会&今後の対策会議を即行うのが僕たちの日課だ。


 僕たちというよりは時枝だ。


 バンドの中でも時枝はとびきり熱い、毎日ファーストフード店に寄るのは懐的にも厳しいのだが、時枝の情熱も無下にはできない。なかなか悩ましいところだ。


「戦略を練りましょう!」


「「「戦略?」」」


「いえす! メジャーデビューまでのロードマップを作りましょう!」


 時枝にしては真っ当な提案だ。時枝はその熱さのあまり、気合いと根性に頼りがちなのだが、ロードマップとは……ちゃんと考える頭も持っているようで安心した。


「ちなみにこれが、あーしの考えたプランです!」


 3人で時枝の作ったロードマップを見て愕然とした。


 ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→ライブ→オーディションライブ→ライブ→ライブ→ライブ→合格→メジャーデビュー★


 一瞬、何の間違い探しかと思った。


 時枝はやっぱり時枝だった。


「どう? どう? どう?」


「そ……そうね、もうちょっと中身詰めようか」


 やんわり諭す衣織。


「全然ダメ。まず高校生なのに、こんなにライブできない。資金が持たない。バカなの?」


 ど直球な穂奈美。


「うぅぅ……」」


 へこむ時枝。


 ある意味バランスのとれたメンバーだ。



 でも、僕はメジャーデビューまでのロードマップについては既に考えていた。


 高校生の僕たちでもできる活動。


 資金がなくても出来る活動。


 衣織の大学受験に支障がでない活動。


「衣織、時枝、穂奈美、ロードマップについては僕も案があるんだ。聞いてくれる?」


 深く頷く3人。


 僕はメジャーデビューまでのロードマップを語った。



 ————————


 【あとがき】


 鳴は何を語ったのか!


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