第39話 告白

 「お前…………」


 どういうことだ?

 俺の親友は5年前に殺された。

 だが、目の前にはその親友レンがいる。しかも、以前よりも身長も伸びており、成長しているように感じる。

 

 困惑で唖然としていると、レンが近寄ってきて、


 「おーい? どうしたの? 僕だよ? 僕、レンだよ?」


 と呑気に俺の顔の前で手を振る。

 レンの一人称が『僕』? 『俺』ではなく『僕』? 

 コイツ、本当に…………レンだよな?  

 

 「おい、お前、死んだんじゃなかったのか?」

 「うーん…………そうだね」

 

 問いかけると、レンは腕を組み、首を傾げた。


 「厳密に言えば死んでない、のか? あ、でも僕にはそもそも死ぬ概念はないから、死ぬとか関係ないのか」

 「何言っているんだよ…………」


 銀髪と緑の瞳を持つ少年、顔もそっくりであり、姿はレンであることは分かる。


 だが。


 話し方に関してはまるで別人。以前のレンは誰よりも口が悪く、ストレートに物申すやつだった。

 しかし、目の前にいるレンの姿をしたやつはふにゃふにゃした天然系。以前のレンとは真逆だ。


 「お前、レンの姿をして何をしようとしているんだ? 本物のレンなのか?」

 「レンの姿をしてって…………僕は正真正銘のレン・アベルモスコなんだけどなぁ。疑わないでよ、ネル」


 「疑うなと言われても、お前は俺の目の前で死んだんだ。疑わずにいられるか。性格もまるで変わっているし…………」

 「ねぇねぇ」

 

 レンと言い合っていると、近くから聞こえた声が。

 

 「なんだよ、今、レンもどきと話してんだ。邪魔をする、な…………」


 ゆっくり下を見ると、さっき殺したはずの女が目を見開いていた。

 

 「それで私はいつまで死んだふりをしておけばいい?」

 「!!」

 

 はぁっ!?

 ベルティアコイツ、まだ生きてる!?

 

 殺したはずのベルティアがしゃべり出し、俺は慌てて、彼女の体を床に落としてしまう。


 「痛っー! 何、急に落とすのー!?」

 「いや、落とすに決まってるだろ! 死んだやつが急にしゃべり出したんだから! 驚かすなよ!」

 

 俺は生き返ったベルティアから距離を取り、警戒する。

 あー、マジでビビった。ホラー映画かっつうの。とっとと死体から手を放しておくんだった。

 

 「はぁ…………全く、ベルティアは」


 一方、レンは地面に座り込むベルティアを見て、呆れ顔を浮かべていた。

 レンとベルティアコイツは接点があるのか?

 すると、俺が予測した通り、2人は知り合いかのように話し始めた。

 

 「ネルをおもちゃにして遊んで…………全くベルティアは…………はぁ、言ったでしょ? この学園には来たらいけないって」

 「だって、ちょっと気になったんだもの」


 ベルティアの気だるい返答に、レンは大きく溜息をつく。


 「気になったんだもの…………じゃないよ。君は何か起こしかねないと思ったから忠告しておいたのに、ネルと戦うなんて見つかったらどうするつもりだったんだよ」


 「そのためにコンコルドが見張りについているんじゃないのー」

 「そうだけどさ」


 レンとベルティアは俺たちを置いて、話し続ける。2人の話に耳を傾けていたが、ベルティアが勝手な行動をしてレンに怒られていることだけしか分からなかった。


 コンじいの名前も出ている…………どういうことだ? もしかして、ベルティアとコンじいにも接点があったのか?


 見つかったらどうするつもりだ、ってどういうことだ?


 頭の中には次々に疑問が浮かんでいく。


 「おい、お前本当にレンなのかよ」

 「何度言わせるのー? 僕は君のかつての親友レンだよ。そんなに疑うなら素っ裸になって証明しようか?」


 「いいよ! 脱がなくて! 男の裸を見る趣味なんかないんだよ!」

 

 これだけ言うんだ。きっとレンなのだろう。

 なら、なんで…………コイツは…………。

 俺は真剣な表情で銀髪少年に問いかける。


 「なぁ、レン。死んだはずのお前がなんで生きているんだ? さっきの死ぬ概念がないってどういうことだ?」


 レンは先ほどとは違う、真剣で、でも、どこか冷たい表情を見せる。

 そんな彼の表情に、俺はゴクリと息を呑む。

 しかし、彼の表情は緊張感をぶち壊すように、明るい笑顔に変わった。

 






 「僕はさ、神の子なんだ。だから、死ぬ概念がないのは当たり前でしょ?」


 レンはあたかも当たり前のことを話すかのように、笑っていた。



 

 ★★★★★★★★


 


 一方、その頃。

 大きな館の廊下では、1人の男が急いで歩いていた。廊下には多くの者が行き来するが、彼の前ではみな頭を下げていた。


 しかし、男はそんなことは気にもせず、歩いていく。石畳が割れるのではないかというぐらい地面が揺れていた。

 それぐらい彼は怒り、そして、焦っていた。


 ――――――――なんでこんなことになっているんだ。

 俺がしっかり管理はしていたはず。監視は絶対に怠ることはなかった。

 それなのに゛ぃ!


 「何ヶ所確認できたんだ?」

 「少なくとも10はあるかと」


 まずい、まずい…………これではあの人からの信頼を失ってしまう。


 「見つけたものはどうしている?」

 「はい。回収し、1ヶ所に集めています」


 「他にも確認できれば、そこに集めておいてくれ。後で俺が確認しにいく。それで、やったやつは誰がいるんだ?」

 「アルデン、オリバー…………」


 部下は名前を次々挙げていく。読まれた名前は普段あまり関わらない連中ばかりだった。

 

 「…………そして、サイルですね。今の所確認できているのはその者たちです」


 「まだ確認できていない者もいるのか? それなら急げ。うやむやにされても、あの方がいるからなんとかなるが、できればあの方のお力をお貸しいていただくのは避けたい」

 「分かりました。急ぐよう伝えておきます」

 

 男は読み上げられた1人の名前を思い出す。


 サイル…………か。

 確かやつとは一度飲んだことがあったか。その時、そいつはひたすら俺に愚痴や叶わない願いをペラペラとしゃべっていたか?

 叶わない願いをペラペラ…………。


 『シャキアさん、俺、この世界から降りたいんですよねー』


 男は先先進めていた足を突如止めた。


 「シャ、シャキア様?」

 

 急に止まった上司に部下は戸惑っていた。部下はそっーと上司の顔を伺う。


 すると、そこには末恐ろしく険しい顔があった。思わず、ぎょっとする部下。彼はこんな顔をする上司を一度も見たことがなかった。

 

 「ライン」

 「は、はい! なんでしょう!」

 「やつの所を見てこい。今すぐにだ」


 「あの…………『やつ』というのはあの…………」

 「そうだ! あの白銀・・のことだ! さっさと行ってこい!」

 「りょ、了解いたしました!」


 男の指示を受け、部下はそそくさと走り去っていく。

 廊下に1人残った男。彼はイラつきのあまり、床をドンと踏みつけていた。


 「クソっ! レンのヤツ、やりやがった!」


 その叫びが廊下に響いていた。

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