第43話 新紙幣のデザインなのだが


 二週間後。

 八月下旬に入ると、パシク国内中で、改革ラッシュが始まった。


 日本からの資金援助5兆円で遠洋漁船や各種農業機械を買い付け、国中の漁港や農村に貸し出した。


 いつか、彼らの生活が好転したら、分割払いで買い取って貰う予定だ。


 さらに、日本の建設会社に来てもらい、学校、病院、ダム、上下水道、港湾の建設をしてもらいつつ、パシク人の労働者に技術を教えてもらう。


 そして、日本へ留学生一万人を送り込んだ。


 彼らの生活費は全て、こちらで面倒を見るので、バイトをする必要もなく、彼らは全員、学業に邁進できる。


 加えて、日本の大学教授と医者を1000人ずつ招いた。


 教授にはパシクの大学で教鞭を取って貰い、医者には大型の病院で技術指導をしてもらう。


 最後に忘れてはいけないのは、救援物資だ。




 朝の閣議で、カナが隊長たちに説明する。


「古着古靴と賞味期限が近い食品は、滞りなく、国内の村と町に配送中。生ものの食品は、荒野に埋めて一大耕作地帯に変えるプロジェクトに回しております。そして、今回の目玉で本丸、インフレ退治について、ショウタ殿から説明があります」


 カナに促されて、俺は口を開いた。


「インフレってのは、金の信用がなくなって価値が下がっていることだ。だからまず、心機一転、新札を発行する。パシクドルに代わり、パシク円だ。ただし、それだけじゃ信用は回復しない。国民に、コレがあればモノが手に入るという実感を与える必要がある」

「ショウタの言う通りだ。しかし、どうやってその実感を与える? パシク政府は保有している金塊が少なく、金本位制は使えないぞ?」


 オウカの言う金本位制とは、国がお金と金塊を交換してくれる制度だ。


 一万円札を日本銀行に持っていくと、一万円分の金塊をくれると思えばわかりやすい。


 いつでも金塊と交換してくれる。だからこそ、人は【10000】という数字が印刷された紙切れを【一万円札】として扱っている。


 ただし、今の先進国では、政府の保有金塊以上の紙幣を発行していることが多いので、通貨の流通量を調整することで通貨の価値を保つ、管理通貨制度が採用されていることが多い。


「オウカの言う通りだ。それに、国民がお金そのものを信用していないから、管理通貨制度にしても、効果は薄いだろうな。食料とかの物々交換を望む国民が消えないと思う。だから俺らは、【金本位制】ならぬ【食品本位制】を始める」

「ショウタ、どういう意味ですか?」

「つまり、日本からの援助食糧をお金と交換するということだな?」


 首を傾げるナナミと違い、オウカはすぐに察した。流石はリーダーだ。頭がキレる。


「ああ。しばらくしたら、家庭への食糧配給をストップする。その代わり、食料は役場に配送する。役場に新札を持って行けば、食品を買えるようにする。そうすれば国民は、【コレがあれば食料が手に入る】と学習するわけだ。食べ物は人が生きる上で絶対必要なものだ。実際、昔の日本では米が通貨の代わりに使われたぐらいだからな。こうすれば、みんな新札を信用して、他の店でも使えるようになるだろ」


「確かに、日本の食べ物はおいしいですしねぇ」


 日本から届いた冷凍食品やお菓子の味を思い出したのか、ナナミはぺろりと唇をなめた。


「ただし、これを長期間行うと、元から存在する食料品店が困る。だから新札が浸透してきたら、食料を各種店舗に卸売りをする」


 続けて、俺は紙幣そのものの説明に移った。


「紙幣の材料は木綿と麻を50パーセントずつ。アメリカドル紙幣と同じで布に近くて触り心地が紙とは違うから偽造されにくい。さらに、国民が一目でわかるよう、インクの色は一万円札が黒色、千円札が青色、百円札が赤色、十円札が茶色、一円札が緑色だ。お札の顔は権力者が誰かわかりやすくするために、オウカがいいだろう」


 そこで、淡々と説明する俺に、オウカが待ったをかけた。


「それについてだが、せっかく五種類ものお札があるのだ。別々の人間の顔を印刷するべきだろう。まず、千円札はショウタ、貴君だ」


「…………え、俺?」

 

 俺は苦笑いを浮かべた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 日本行の飛行機に乗せられた機長は、あまりの絶望感で飛行機が日本へ飛んでいる間に髪が半分白くなった。


 航空会社では、すでに後任の機長が決まっていた。


 一応、機長の肩書はそのままではあったが、飛行機をハイジャックされた縁起の悪い機長として扱われた。


 そのせいで、フライトのシフトにはなかなか入れてもらえず、事務作業ばかり押し付けられた。


 同僚たちも、機長の扱いに困り、腫物を扱うように接してくる。




 そして、機長がパシクに滞在している間、妻と娘は周囲に悲劇のヒロインを気取っていたらしい。


 近所でも有名な良妻娘として称えられている姿を見たときは、奥歯が砕けるほど悔しさを噛みしめた。


 変わらず、妻と娘から虐げられる日々の中、機長は自問した。

  

 何故だ、何故自分がこんな目に遭っている。


 自分は今までの人生を、ずっと勤勉に過ごしてきた。

 

 約束された栄光。満たされた勝ち組の人生。


 それが全て、あの運命の日に狂わされた。


 機長が目をつぶり思い出すのは、憧れのパイロットとして活躍した、機長としての日々、そしてそれを終わらせたハイジャック事件……ではなかった。


「小さく愛らしい、ひとなつっこい素直な美幼女たち、私を慕ってくれる、美しく可憐で純朴な美少女たち、そしてムチムチバインバインなのにおしとやかで上品な、花畑に咲き誇る大輪のような爆乳爆尻美女……あぁ、帰りたい、パシクに、私のホームに帰りたい! おのれ日本政府! よくも私をパシクから拉致したな! 即時返還を要求する!」

 

 今日も機長は、血の涙を流しながら壁ドカンをするのだった。


 そんな機長のもとに、一報が入った。


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