第32話 翔太は、犠牲になったのだ……


「では、これで失礼するぞ。我々は、この国に新しい産業を興さねばならないのでな」

「新しい産業って何よ?」

「ショウタの発案でな、コーヒーやカカオを作るのだ。それでショウタ、貴君はどうする?」


 ショックで腰砕けになりながら、俺はオウカのロケットおっぱいから顔を上げた。


「そうだな。コーヒーとカカオは後で指示書を作るとして、俺は南向きの漁村で、ミカンを作れる場所を探したいな」

「何故、漁村でミカンなのだ?」


「ミカンは太陽を当てれば当てる程甘くなるからな。南の海沿いに石垣を作って、その前にミカンを植えると、一日中太陽が当たるし、海と石垣の照り返しで三倍の太陽が当たって、いいミカンができる。マルチシートとつづら折りの道からも反射すれば五倍になる。段々畑にするんだ。それを、パシクブランドのミカンとして国内外に売り出したい」


「ほう、それはいいな」


「今まで周った漁村に行って丘を見繕って、漁師の副業として、もしくは漁村に住んでいるけど漁師に向いていない人にミカン農園をやってもらいたい。漁村なら肥料の海藻と魚はいくらでも手に入るしな。ただ、種から育てると実をつけるのに数年かかる。国内のミカン農家からミカンの木を直接分けてもらって漁村に移転させよう」


「ミカンなら、うちの村でも作っていますよ」

「ちょうどいい。じゃあナナミの村で木を分けてもらえないか交渉してみよう」

「任せてください」


 ナナミが自信たっぷりに胸を張ると、ミイネが酷く悪い顔をする。


「なら、ワタシも連れて行きなさい」

「え?」

「こんなところにいたら息が詰まるわ。監視でもなんでもつけていいから、一度外に連れて行きないよ」


 オウカの瞳が、ギロリとミイネをねめつけた。


「そんなことを言って、逃げる気ではないのか?」


 ギクリン、とミイネは肩を跳ね上げた。わかりやすい子だ。


「にに、逃げないわよ。それとも、こんな小娘に逃げられるほど、貴方たちは迂闊なの?」

「私たちをバカにしてるのですか!?」

「バカにしてるのはどっちよ? 一国の姫をこんな埃っぽい部屋に何日も閉じ込めて。外に出しなさいったら出しなさいよばかぁ!」


 オーバーに騒ぎながら、ミイネは地団太を踏んだ。


 その光景に、オウカたちは渋い顔をする。


 すると、ミイネはポンと手を叩き、ころりと態度を変えた。


「そうだわ、じゃあ取引にしましょう。もしも外に出してくれたら、知り合いのミカン農家やコーヒー農家やカカオ農家に頼んで、木を分けてもらえるよう口添えするわ。それならいいでしょ!」


 オウカの瞳が興味に光る。


「ほほう、そんな知り合いがいるのか?」

「王室に下ろす、超高品質栽培の農家がいるのよ」


 その瞬間、俺は気が付いた。


 ——ハッ!? これはもしや、逃げるチャンス。


 彼女なら、国王派の居所を知っているかもしれない。


 ミイネを外に出して、二人で一緒に国王派と合流。ミイネ姫を救出した恩を盾にして、日本行きの船を手配してもらえるかもしれない。


 逃げられなくても、二人きりになるチャンスがあれば、俺が黒幕という誤解を解ける。そしてミイネに取り入って日本に帰るんだ。


 腹の底でニヤリとほくそ笑んで、俺は言った。


「なぁオウカ、あんまりストレスを貯められて自殺でもされたら困るし、ここはガス抜きの意味でも言うことを聞いてやろうぜ。それに、ナナミの村だけじゃ、ミカンの木も足りないし。伝手は多いほうがいいだろ? 王室に下ろす超高品質な奴なら、将来のパシクブランドにもうってつけだしさ」

「貴君がそう言うのであれば許可しよう」


 よっしゃ。


 俺はガッツポーズをした。ミイネも、小っちゃくガッツポーズを作った。




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 今回は皆様にコメント紹介をしようと思います。


第29話 kctonkiさんからの応援コメント

 ヘタレのムッツリスケベだったのが色々とたくましくなったね……というか親族とか友達とか今心配してないんだろうか?


 応援ありがとうございます。では、この場をもって返信させて頂きます。


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 高橋翔太が拉致られた三日後。

 日本へ帰国した教師たちは、どうして翔太だけが拉致されたのか、何故彼だけ逃げ遅れたのか、報道陣に問い詰められていた。


 教師たちは、事前にさしておいた目薬をこぼしながら熱く語る。


「高橋くんはわたしたちのために犠牲になったんです!」

「そうです。彼は我々を逃がすためにテロリストに立ち向かい、その隙に私たちは逃げられたんです。なっ、(赤点の)みんな!」

『もちろんです!』キリッ


「高橋くんはとてもマジメで正義感に熱く、みんなの信頼も厚い模範的な生徒でした! ねっ、(内申点が欲しい)みんな!」

『本当にいい奴でした!』キリリッ


「私は教師として最後まで残ろうとしたのですが、高橋くんは私のお腹を殴り、私を気絶させ、自分一人が、うぅっ、そうだろ、(このあと焼肉を食べたい)みんな!」

『先生の言う通りです!』じゅるり


「続いて、高橋翔太くんのご両親に質問です。お二人は、学校側の対応に問題はなかったと思いますか?」


 バーコード頭の男性が、満面の笑みで胸を張る。

「はい! 学校側は最後まで息子を守ろうとしてくれましたしお見舞金を1000万円も包んで、ゲフンゴフン、とにかく学校側にはなんの落ち度もありません。な、オマエ」

「そうねアナタ。飛行機に最後まで残ったのは、あの子の意思です。私は母親として、息子の意思を尊重致します。あ、このあと用事(高級エステ)があるのでもう帰っていいですか?」


「では最後に、校長先生。何か一言」

「はい! 高橋翔太くんの偉業を讃え、彼の胸像を校門に飾りたいと思います。いやぁ、彼は本当に理想の生徒でした。拉致されたことが残念でならない。一日も早い帰国を望みます!(どうせ日本政府にそんなことできやしないさ)」


「わかりました。貴重なお話をありがとうございます。ところで、最初に非常脱出ドアを開けた鈴木鉄平くんはどうなったのでしょうか? 行方不明と聞いていますが?」

 

 会見場を、静寂が包み込んだ。生徒が、教師が、校長が、翔太の両親が、同時に口を開いた。


『…………へ?』

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 30000PVアンド♥500達成しました!

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