第30話 姫って誰?
「やっぱりここは、新しい産業を興す必要があるな。そもそも国内にあらゆる物資が不足している。けれど国内の生産業を育成するには時間がかかる。手っ取り早いのは輸出品だ。特産品を輸出して外貨を稼いで、その金で外国から物資を買うんだ」
「ふむ、それはいい考えだ。しかしショウタ、パシクの主な輸出品は綿花ぐらいしかないぞ?」
「それは俺も資料で読んだよ。だから、今まで以上に綿花に力を入れるのはもちろん、新しい産業として、南国を活かしたコーヒー豆、カカオ豆、さとうきび、胡椒、各種果物作りを拡大しようと思う」
いま俺が口にした五品目は、今でも作ってはいる。けれど、小規模で国内消費分ぐらいしか作っていない。
パシクの作物は、麦、米、芋が中心だった。
「コーヒーは赤道付近でしか育たない性質があって、この、赤道を中心にしたコーヒーが育つ地域を、コーヒーベルトって言うんだ。先進国はほとんどが赤道よりも北に位置しているけど、パシクはコーヒーベルトの中にいる。その他の胡椒やカカオ豆、さとうきびも、先進国の最新農業なら作れるものもあるけどコストがかかるから、発展途上国からの輸入が多い。いい輸出品になるだろう」
みんな、そうだったのかと目を丸くした。
「あとは遠洋漁業だな。せっかく太平洋に面しているんだから、マグロとか高い魚を取りたい。もっとも、マグロ船の購入にはお金がかかるし、作物や果樹の生育には時間がかかる。今日明日で実るものじゃない。初期投資費用と産業が軌道に乗るまでの予算は、さっきオウカが言っていた、政治家たちから接収した財産で、賄おう」
「流石は農林水産大臣!」
「ショウタ様の知識にはいつも驚かされます!」
会議室には、俺を褒めちぎる声が溢れる。
カナなんて、握り拳を固めて「ショウタ殿は我らが救世主でありますな!」とか言っている。
顔もスタイル抜群の2・5次元系美少女たちに褒められまくると、悪い気はしないけど、ちょっと恥ずかしい。
今までの人生で、俺がここまで受けいれられたことがあっただろうか?
軽く感動すら居心地の良さだった。
オウカが、びしっと力強く指さしてきた。
「よし、ショウタ! 貴君は今日から経済産業大臣も兼任だ!」
「また仕事が増えるのかよ!?」
「信頼の証だ」
オウカは口元に、不敵な笑みを浮かべた。
――調子いいなおい。でも、信頼の証か。
さっき、オウカはらしくもなく、『なんとかしろ』と俺に丸投げしてきた。
一瞬、他力本願なブラック上司かと思ったけれど、俺に気を許した、彼女なりの甘えなのかもしれない。
ようするに、『ショウタくんおねがぁい』というわけだ。
オウカがテロリストじゃなくて同じ高校の先輩ならバラ色の人生なのに。
心の中でがっくりと肩を落としながら、俺は腕を組んだ。
「あとは、地下資源があれば確実に儲かるんだけど、この国の地下資源事情は?」
オウカは、苦し気に眉根を寄せた。
「昔は千を超える、あらゆる鉱山があった。だが、全て掘り尽くしてしまい閉山済だ。今はもう、数える程度しか稼働していない」
「そんなにあるのに全部掘り尽くしたのかよ。ん、掘るってどうやってだ?」
「そんなもの、タガネというデカイ釘みたいなものを鉱脈にあてがいハンマーで叩くか、ツルハシで掘るに決まっているだろう」
「よしっ! つまりは手彫り。なら、先進国の掘削機械を使えばもっと深くて硬い層まで掘れるんじゃないのか?」
明治時代の日本でも、同じことがあった。
江戸時代の手彫りで掘り尽くした鉱山に、外国の蒸気機関掘削機を導入した。
すると、今までは硬すぎて掘れなかった鉱脈を次々開拓して、鉱石の採掘量が飛躍的に伸びたらしい。
「だがショウタ、先進国の掘削機械などどうやって手に入れる?」
「そこが問題だ。確認だけど、綿花も手摘みか?」
「そうだ。多くの労働者が、手をぼろぼろにしながら働いている」
「綿花を拡大するならコットンピッカー、その他のコーヒー豆、カカオ豆、さとうきびなんかを大量に育てるのにも、農業機械の導入が必須だ。肥料や堆肥をまくブロードキャスターにマニュアスプレッダー、畑を耕すプラウやロータリーが欲しい。さっき話した遠洋漁業は、凄く儲かる。やりたがる漁師が多そうだけど、肝心の遠洋漁船が必要になる。これらの問題を解決するには外国、それも先進国との貿易が必須だ」
「この辺りで先進国となれば、日本かオーストラリアだな」
「俺の祖国日本は発展途上国へのODA実績が豊富な国だ。日本と交渉して、農業機械や遠洋漁船を援助してもらおう」
交渉の場に俺が行けたら、そのまま日本の外交官たちにくっついて帰れるかもしれないし。
という本音は飲み込んだ。
「では、経済面はショウタの案で進めよう。次に前政権である、国王派の残党だ。先日逮捕した連中は氷山の一角に過ぎん」
——良かった。連中にはなんとしても政権を取り返してもらわないとな。オウカの豊乳は捨てがたいけど、テロリストの仲間は御免だ。
「カナ、姫はどうしている?」
「いつも通り、荒れていますよ」
「姫?」
俺は首を傾げた。
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