第3話 ここは美少女コスプレ会場かな?
パシク王国とは、日本の南東に位置する、太平洋国家の一つだ。
先週、地理の授業で聞いた説明によると、国土面積は本州ぐらい。
人口は1000万人。
GDPは205億ドルで、ジンバブエにつぐ115位だ。
ジンバブエってあれじゃん。
為替レートが3・5京(京:兆の一万倍)ジンバブエドルで1ドルのジンバブエじゃん。
そこより貧しいのかよ。
政治は王政。
ナナミたちは、パシク国解放軍を名乗っていたから、たぶん、反王政府組織なんだろう。
その、王政府が俺の命綱だ。
ぶっちゃけ、日本政府はアテにできない。
日本政府に、拉致被害者救出能力は無いに等しい。
日本の政治家に期待をしても、悲しいくらい得るものが無い。
けれど、パシク王政府は別だ。
王政府からすれば、反王政府組織の解放軍は邪魔なはず。
それに、俺を助ければ、GDP世界第三位の先進国日本に恩も売れる。
きっとパシク警察やパシク軍、パシク王政府が、全力で俺を助けてくれるはずだ。
太平洋上空を飛ぶ飛行機の中で、俺はそれだけを支えに、平常心を保っていた。
だが、両手を縛られ座席に座らされること一時間。
不意に、ナナミが無線を取った。
「はい、こちらナナミ。姉様♪ 待っていました、首尾はどうなのですか?」
声と表情をはずませて、ナナミは年相応の、可愛らしい声でちっちゃく跳び跳ねた。
その姿は愛くるしいけれど、こいつのせいで逃げ遅れたと思うと、憎しみしか湧いてこない。
諸悪の根源たるナナミは、姉様と呼ぶ人の話を聞き終えると、誇らしげに勝利の拳を突き上げた。
「喜ぶのですみんな! 姉様たち本隊が、宮殿の制圧に成功し、見事暴君を討ち果たしました! これからは、我々こそがパシク新政府なのです!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
そんなぁあああああああああああああああああああああ!
唯一の希望が潰え、俺は心の中で絶叫して絶望した。
――う、うぅ、うぐぅ、まだだ。こいつらは所詮はテロリストで犯罪者。パシク軍や警察がきっと、テロリストとしてこいつらを処分してくれるはずだ! そうすれば、俺は日本に帰れるんだ。
「なお、軍と警察内部の協力者たちのおかげで、軍事基地と警察署の掌握も完了したそうです。つまり、我らの完全勝利です!」
『うぉおおおおおおお姉様ばんざぁああああい!』
いやぁああああああああなんでお前らそんな有能なのぉおおおおおお!?
俺の心は、奈落の底へと落ちていった。
◆
飛行機がパシク国の飛行場に到着すると、俺は宮殿――と言っても中世的な感じはなく、国会議事堂みたいなデザインで、内装も近代的――へ連れていかれた。
今は、後ろ手に縛られたまま、会議室の隅に転がされて、放置されていた。人質の扱いが雑過ぎる。
やることもないので、仕方なく、連中の様子を観察する。
それがグループの制服なのか、灰色のニーソックスに象牙色の短パン、暗い黄緑色のノースリーブシャツ姿の若い女性や少女たちが、忙しそうに立ち回り、ぎゃーぎゃーと騒がしい。
どうやら、新政府として動き出すべく、政府資料を洗っているらしいが、問題だらけで困っているらしい。
「国庫がパシクドル紙幣ばかりで金塊と外貨がありません!」
「インフレで紙切れ同然の自国紙幣が何の役に立つんだ!」
「備蓄庫の食料も少量の贅沢食材ばかりで国民に配れる保存食や主食がないです!」
「企業が滞納している税金がこんなに! 徴税管理ずさん過ぎだろ!」
最初は絶望して涙が止まらなかったけど、敵の慌てふためく姿を目にしていると、逆に落ち着けた。
――それにしても、なんつうか、コスプレ会場みたいだな……。
パシク人の特徴なのか、みんな肌がキレイで、顔のパーツが整い、目が大きく二重で、髪や瞳の色にはバリエーションが多い。肌は色白な日本人ぐらいの人が多くて、時々、青白い子や褐色の肌の子もいる。
全員スタイルもよくて、ミリタリー系のコスプレイベントに、トップコスプレイヤーたちが集まれば、こんな光景が出来上がるかもしれない。
――キレイどころばかりだけど、やっぱり、ナナミが一番可愛いな。
俺を拉致ったにっくき相手ではあるものの、悔しいことに、見た目だけは最高である。
しかし、いくら可愛くて、拉致した恨みは消えない。
俺はこの先どうなるのか。拷問はあるのか。地下牢で貧しい飯と水道水だけの軟禁生活が始まるのか。将来への不安は尽きなかった。
――はぁ、本当なら、今頃ハワイのビーチで水着美女たちを鑑賞しているはずなのに。どうして俺がこんな目に……まぁ、ニーソックスと短パンの絶対領域とノースリーブシャツの乳袋と乳テントと乳エプロンは見放題だけどさ。
水着美女の代わりとばかりに、みんなの素敵な乳揺れで自分を慰めていると、廊下の方がいっそう騒がしくなった。
「姉様!」
「姉御!」
「親分!」
「リーダー!」
「オヤビン!」
呼び方に統一感はないものの、きっと、パシク国解放軍のトップが来たのだろうと思って、俺は首を回した。
そして、絶句した。
絶世の美女、どころではない。世界をひざまずかせるほどの美女が、生きて歩いていた。
トップモデル並の身長と長い美脚が、力強く絨毯を踏みしめる。
俺以外の童貞なら、理性を失う程に大きくボリューミーな豊乳が揺れている。(俺は紳士なので失わない)
ハリウッド女優が恐縮してしまいそうな美貌は、女帝の風格を醸し出す。
ルビーのように赤い瞳は、何事にも動じない鉄血の意思に輝き、腰まで伸びた濃く艶やかな黒髪は、光沢すら帯びていた。
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