第13話 対決、聖女vs北西八華戦! 破れ、鋼鉄のドレス!

 空白地帯を救うためには、ノーザン王国の力を借りる必要がある。

 さらにそのためには、ノーザン王国に認められる必要があるのだった……!


「大変分かりやすい状況です」


「分かりやすいですかねえ? なんか回りくどくないです? 俺はもっと、ヒャッハーって飛びかかってぶん殴ったら終わるようなのが楽なんですけど」


「同じような状況ですよ」


 ここは荒野。

 空白地帯を、魔導バイクが突き進んでいる。


 少女ミーナは役割を果たし、一旦村へと帰還した。

 ここからの戦いは危険なので、彼女は安全なところにいてもらうのだ。


 村は王子の私兵によって守られている状態。

 並のごろつきや山賊程度なら、彼らで止められるだろう。


 聖女アンゼリカが向かうのは、王子の私兵ではどうにもならない相手のもとだ。

 北西八華戦と呼ばれる、八人の豪傑がその地域を、暴力と恐怖で治めている。

 これを平定し、彼らの身柄を王国に差し出すのだ。


 それによって、アンゼリカの功績は認められ、王国の貴族として空白地帯を領土とできるようになる。


「いいですか、シーゲル。八人ほどを愛で分からせればいいのです」


「聖女様の愛っつーのは、チョップで薙ぎ倒したり投げ倒したりすることですよね、よく分かります」


「あなたにはまだまだ難しいでしょう。このクロスボウとナイフを使いなさい」


「あ、ども……。ヒャッハー! この武器、馴染むぜえーっ!!」


 はしゃぐシーゲル。


「仕方のない人ですね。いいですかシーゲル。村人達の前でナイフを舐めたりして怯えさせてはなりませんよ……」


「えっ、それってやれってことですか!? フリですか?」


「やったらバックドロップですよ」


「聖女様の投げ技は死んじゃう!!」


 賑やかなバイクは、一路、空白地帯の北西部へ。





 そこは大地に無数の亀裂が走る、キャニオンと呼ばれる地域。

 作物のあまり育たない不毛の大地で、人々は細々と暮らしていた。


「おらあー! 働け働けぇ!! 綿花を収穫して糸に直して、シャツに仕立ててあちこちに出荷するんだよォーッ!!」


 髪を逆立てて、顔に隈取を塗った巨漢の群れが鞭を振り回している。


 ひいひい言いながら綿花を収穫しているのは、村人達だ。


「ぎゃーっ」


 動きが遅かった村人が鞭で打たれた。


「おっと、手元が狂っちまったぜえーっ!! おめえがあんまり動きが遅えからよぉーっ! 脅かすつもりが鞭が追いついちまったようだなあーっ!」


 他の巨漢達が、げひゃげひゃと笑った。


「お前達ィーっ。収穫の具合はどうだいー?」


 そこにやって来たのは、身の丈5mはあろうかという装甲ドレスに身を包んだ女である。

 無論、彼女が放つあまりの威圧感に、背丈が大きく見えているのだ。


「姉御!! へい! 順調ですぜ!」


「お前達ィーっ。あんまり労働者をいじめるんじゃないよォーっ? あたしらの明日のおまんまはこいつらが稼いでくれるんだからネェーっ」


 ちょっと優しいことを言う巨大女である。

 この女こそ、北西八華戦の一人、鋼鉄ドレスのゾビィ!

 様々な武器をドレスに仕込むその姿は、歩く要塞とも言われているのだ。


「ゾ、ゾビィ様、わしら食事の量を減らされて力が出なくて……! 何卒お慈悲をーっ!!」


 老人がゾビィのドレスにすがりついた。

 これを見て、ゾビィは一瞬微笑んだように見えた。


 だが、次の瞬間!


「うおああああああぁぁぁぁッ!! あたしのドレスに、汚ェ手で触ってんじゃねええええええええぇぇぇぇ!! このクソ野郎がぁぁぁぁぁっ!! ここでぶっ殺してやるわよぉぉぉぉぉっ!!」


「ぎ、ぎえーっ!」


 5mの身長からの、鋼鉄ドレスを纏ったストンピングを受け、老人は悲鳴を上げた。

 繰り返すが、威圧感から5mに見えているだけで、普通は5mの人から踏まれたら死ぬ。


 だが、このまま踏まれ続ければ老人はやはり死ぬだろう!

 ストンピングを受けてもピンピンしていられるのは、鍛え抜かれたレスラーくらいのものなのだ。


「ひええ、姉御が怒ったぜ!」


「あの人、ドレスに手を出されたら速攻でキレるからな! こええこええ!」


「ほう、いいことを聞きました」


 突然、巨漢達の背後から声がした。


「女の声……!?」


 振り返った巨漢は、同じ高さに、美しい女の顔があることに気づく。

 風に黄金の髪がなぶられ、まるで太陽のように輝きながら広がっている。


「な、なんだあ、お前は……」


「アンゼリカと申します。訳あって、虐げられる人々を救いに参りました。そして愛を知らぬあなた方に、愛を伝えに」


「愛だぁーっ!? ぎゃはははは! おい、聞いたかよ! 愛だってよ!」


「げっへっへ、じゃあ俺達に愛とやらをくださいませんかネェーっ!! 俺達は女にえっちなことをされると愛を感じるんですけどぉーっ」


「H……つまり、こういうことですね。ではお望み通りにしてやろうッ!!」


 突然、柔和だった彼女……アンゼリカの雰囲気が一変した。

 巨漢の髪を鷲掴みにすると、己の頭を大きく振りかぶる。


「は!? て、てめえ何を……動かねえっ!? この女、なんて馬鹿力だ! 振りほどけねえ……」


 Hの付く技と言えば……。

 そう!

 ヘッドバットである!!


「ふんっ!」


「ウグワーッ!!」


 ヘッドバット一撃で額をかち割られ、噴水のように血を吹きながら巨漢が崩れ落ちた。


「ヘッドバットで愛を感じるとは……皆様もプロレスを愛しておられるのですね」


「違うよ!! なんか違うよ!」


 巨漢達が愕然とする。

 そしてすぐに、怒りに顔を赤くしながらアンゼリカへと襲いかかった。


「ちょっとドン引きしたし怖えなあーって思ったけどここで引き下がったら姉御に殺されるから襲いかかるぜえーッ!!」


「死ねや女ぁーっ!!」


 ここで聖女アンゼリカ、困ったように首を傾げた。


「私、Hがつく技を他にヘッドロックしか知りません。どうしましょうか、シーゲル」


「聖女様!! どうでもいいのでやっちゃってくださいよ! 何変なことにこだわってるんですか!」


「それもそうですね。では気を取り直して」


 巨漢達が鞭を振り下ろす!

 それは一斉に、聖女アンゼリカを打ち据えようと襲いかかってきた。


 だが、迎え撃つは伝家の宝刀。

 空を切り、風を裂き、繰り出される熱き手刀。


「空手チョップ!」


 鞭が切り裂かれ、粉砕され、ばらばらになって宙を舞う。

 踏み込んだアンゼリカが、腕を振り上げた。


「シャオラアアアアアアアアッ!!」


 連続で繰り出される空手チョップが、巨漢の群れを次々になぎ倒す!


「ウグワーッ!!」


「ウグワーッ!!」


「ウグワーッ!!」


「な、なんだい!? 何が起こってるんだい!?」


 事ここに及んでは、村人の老人をストンピングしている場合ではない。

 鋼鉄ドレスのゾビィは我に返り、迫ってくるチョップの旋風に向き直った。


「空手チョップ!」


「甘いよ! 鋼鉄ガード!!」


 なんと、ドレス正面が真っ二つに割れ、そこから盾が飛び出してきたではないか!

 盾はアンゼリカの攻撃を受け止める!


「そして鋼鉄ランス!!」


 ゾビィの肩の膨らんだところが展開し、そこから折りたたまれたランスが繰り出される!


 ランスはアンゼリカの肩にぶち当たると、肉と鋼がぶつかり合う衝撃音を発した。


「は!? ランスを生身で止めた!? なんて鍛え方をしてるんだい!」


「驚きました。まるで武器のびっくり箱のような方ですね……!」


 こちらも正気に返ったアンゼリカ。

 今度は冷静に、隙間から空手チョップを叩き込もうとする。


「やらせるものかい! 鋼鉄シールド! 鋼鉄アーマー!」


 鋼鉄ドレスは次々とその機能を展開し、アンゼリカの攻撃を防ぐ!

 聖女の技が通じない……!?


 さすがは、北西八華戦の一人と言ったところであろうか。


「なるほど、正に鉄壁の守りというわけですか」


 アンゼリカは身構えた。

 彼女の心は、折れていない。


「空手チョップ!」


 鋼鉄の守りに、チョップが叩き込まれた。

 甲高い金属音が鳴り響く。


「アハハハハ! 無駄無駄無駄あ!! あたしの鋼鉄ドレスを破ろうと思ったら、魔王でも連れてくるんだねえ!」


 魔王!

 それは、南の帝国に存在し、西と東の二国でようやくその動きを抑えていると言われる恐るべき存在である。


 そんな魔王でなければ破れぬと豪語する鋼鉄ドレス。

 それほどのものなのか……!


「空手チョップ!」


 だが!


「空手チョップ!」


 アンゼリカの攻撃は止まらない!


「空手空手空手チョップ!!」


「無駄無駄無駄……無駄……? あれ? な、なんだい? あいつが大きくなって行っているじゃないか」


 鋼鉄ドレスのゾビィは我に返った。

 聖女アンゼリカが、自分より大きくなって見えたからだ。

 それはつまり、彼女が6mくらいあることを意味する。


 重ねていうが威圧感(略)


「ち、違う! あたしが縮んでるんだ!! バカな! このあたしが気圧されてる……!? 一撃だってあいつの攻撃は通用してないのに!」


 響き渡るのは、鋼鉄の守りを打つチョップ音だけ。

 だが、チョップ音は徐々に大きくなり、そして鋼鉄の守りのゆらぎが大きくなってはいないだろうか?


 ピシリッ!


 何かに亀裂が入る音がした。


「バカな……!! バカなバカなバカな!!」


 ゾビィは戦慄した。

 今の音は、まさか。


「空手チョップ! 空手チョップ空手チョップ!」


 ピシピシピシッ!!


 目に見えるほど明らかに、鋼鉄の守りに亀裂が走っていく。


「あ、あ、あたしの鉄壁の守りがあああああっ!!」


「空手チョップ!!」


 ついに!


 パリィィィィンッ!!という甲高い音とともに、全ての守りは砕け散った。

 そこにあるのは、チョップを振り抜き、残心の体勢にある聖女アンゼリカ。


「どれほど硬いものでも、同じ場所に寸分違わずチョップを打ち込まれれば破壊されるものです。ましてや、私が行ったことは空手チョップの極意。相手が覚悟を決める前に、立て続けに空手チョップをすることで累積した空手チョップが相手をへし折る……。チョップの極みです」


「チョップの極み……!? そ、そんなバカな!! ハッ! ま、まさかお前が……!」


 ゾビィはここで思い出した。

 北方で幅を利かせていた、ポーカー同盟とカード盗賊団が、たった一人の女によって壊滅させられたという。


 その女は聖女を自称し、その名は……。


「せ……聖女アンゼリカ!!」


「はい。それが私です」


 悠然と、チョップの手を振り上げる聖女。


「や、やめっ」


「助けを請う村人を、貴女はただの一度でも許しましたか? ですが例え貴女が許したことがあったとしても、それはそれなのでここで空手チョップ!!」


「ウグワアアアアアッ!!」


 アンゼリカのチョップが、ゾビィの鋼鉄ドレスを粉砕する!


 そのまま50mくらい吹っ飛んだゾビィは、谷底に真っ逆さまに落ちていった。


 北西八華戦の一角、鋼鉄ドレスのゾビィ陥落!


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