第329話 ドーナの悩み
ブレアドラゴンの身柄をマイネさんに託した後、俺達はレイドのギルドへと戻ってくることとなった。そして端折るところは端折って、ナイルさんに一先ずドラゴンはいなくなり、この町にはもう戻ってこないだろう……という報告をする。
「ま、そんな感じであの子、私達と仲良くしたいみたいなんだ。一応私達以外の人間に近付いちゃダメって警告はしたから、この町には戻ってこないと思うよ。」
ミカミさんが、ララはマイネさんに弟子入りした……という事実は伏せながら、ナイルさんにそう報告した。すると、彼は肩の荷が下りたのか、崩れるように近くにあった椅子に腰掛ける。
「そ、そうか……。ふぅ〜、良かった良かった。内心ヒヤヒヤしてたんだ。この町の魔物ハンターでも、ドラゴンと戦闘経験のあるやつなんて、いなかったからな。」
そう言いながら、彼はポケットから赤い石を取り出すと、その石に向かって何やら報告を始めた。するとすぐに町のスピーカーから、危機は去った……と女の人の声で放送が繰り返され始めた。
「これでよし。アンタ等には感謝しないとな……。この町を守ってくれて、本当にありがとう。」
感謝の言葉を述べながら、こちらに深く頭を下げてきたナイルさん。そんな彼の肩に、ドーナがポンッと手を置いた。
「良いってことさ。」
そう言って笑ってみせたドーナだが、俺はその表情に少し違和感を覚えた。
(……あれ?ドーナ、なんか無理に笑ってるような。気のせいか?)
「ほんじゃま、後始末は頼んだよナイル。」
「あぁ、任された。」
「さ、行こうかい。ヒイラギ、ミカミ。」
「あ、待ってよドーナちゃ〜ん。」
足早にギルドの一室を出たドーナの後を追いかけ、俺は彼女の肩に手を置いて、一度引き止めた。
「ドーナ、ちょっと待ってくれ。」
「なんだい?」
こちらを振り向いたドーナの表情は少し硬い。それを見て俺は確信した。
「……帰る前にちょっと、喫茶店でお茶して行こう。ミカミさん、先に宿に戻っててもらってもいいですか?」
「オッケー、じゃあまた後でね。」
空気を読んでくれたのか、ミカミさんはパチンとウインクして、人々の上を飛んで一足先にギルドから出て行った。
「さ、俺達も行こう。」
「え、あ、あぁ……うん。」
ドーナの手を握って先導し、そのままギルドの一番近くにあった喫茶店に入った。そして話しやすい空気を作るために、店内の一番奥の席に座る。
「……で、何を悩んでるんだ?」
「えっ、悩んでるって……なんでわかったんだい?」
「なんとなく、いつものドーナの表情じゃなかった。笑い方も硬かったような気がしたんだ。」
そう言うと、ドーナはぽつぽつと言葉を紡いで、こんな事を相談してくれた。
「……実はさ、アタシ……あんな手負いの状態のブレアドラゴンにさえ、勝てる未来が見えなくてさ。あ、アイツがその気になったら、本当にヒイラギを取られるかもって……。」
話しにくいことを話してくれた彼女の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。
「話してくれてありがとう。そっか、それが表情が硬かった原因だったんだな。」
「アタシ、そんなに表情に出てたかい?」
「うん。いつも見てる俺はすぐ分かった。」
今にも号泣しそうになっているドーナの頭にポンと手を置いて、何度もわしゃわしゃと撫でた。すると、少し心の蟠りが解けたのか、嬉しそうに微笑んだ。
「それで、ドーナはこれからどうなりたい?」
「どうって……そりゃあもちろん、アイツに負けないぐらい強くなりたいし、りょ、料理だって負けたくない。」
「分かった。じゃあ2人先生が必要だな。」
「えっ?」
「料理は俺が教えるよ。それで……戦闘に関しては、あの人を呼ぼう。」
俺はマジックバッグから、カリンさんとの通信機になっている、パーピリオンへの通行許可証を取り出した。
「えっとこの宝石に手を触れて……あ、あ、カリンさん、聞こえますか?」
『んむっ、ひ、
どうやら何かを食べていた最中だったらしい。ゴックンと大きな飲み込む音が聞こえてきた後、向こうから声が聞こえてくる。
『して、此度はどうしたのじゃ?』
「近くにミクモさんっていませんか?」
『おるぞ〜、今代わろう。』
それから少しの間があって、ミクモさんの声が聞こえてきた。
『妾に何か用かの?』
「実はかくかくしかじかで……。」
俺はドーナがもっと強さを望んでいるということを、ミクモさんに伝えた。すると、待ち望んでいたかのように嬉しそうな声が返ってくる。
『やっとその気になったか!!今は何処にいる?すぐに向かうぞ。』
「今レイドっていう町にいます。」
『カリンっ、今すぐヒイラギ殿のところへ妾を送れっ!!』
『んむ……仕方ないのぉ。』
向こう側で指をパチンと弾いた音が聞こえた。その次の瞬間、俺達のいる店の中に魔法陣が現れて、そこからミクモさんが姿を現した。
「待たせた。」
そう一言言って、ミクモさんはドーナへとキラキラとした視線を向けると、目にも留まらない速さで彼女の隣に座った。
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