第254話 宴会の後で
夕食を食べ終わり、お酒に酔って潰れてしまっている面々や子供達を寝かしつけていると、ほんのりと顔を赤くしたシンさんが話しかけてきた。
「ヒイラギ殿、前に話した件なのだが……。1つ良い提案を見つけたのだ。」
「えっと……それって戦ってほしいってやつですよね?」
「うむ。今日行動を共にしていたドーナから少し助言をもらったのだ。ヒイラギ殿をその気にさせるならば、何か珍しく……美味いものを対価に用意すればよいのではないか?とな。」
「なるほど……。」
チラリとドーナさんの方を見てみるが、女性陣はミカミさん以外みんなお酒で潰れてしまって布団で横になっている。
「というわけでだ、もしヒイラギ殿が我と一度手合わせをしてくれるのなら……
「グリフォン?あの……鳥と獅子の混ざったやつですか?」
「うむ。遥か昔……グリフォンを討伐し、食したという国王の伝記が残っているのだ。それによると、グリフォンの肉を食った時、体を蝕んでいた死の病が治ったというのだ。」
「なるほど……味に関しては何か記録はありませんでしたか?」
「例えようのない味らしい。鳥でもあり豚でもあり、牛のようでもある……と書かれていた。」
「ほへぇ〜、なんか気になるじゃんね柊君?」
「気になることは気になるんですけど……そのグリフォンって一回討伐されちゃってるんですよね?」
「うむ。」
「それなら……もういないんじゃ?」
「いや、文献には巣の卵は残したと書いてあった故、種は存続している
シンさんの言葉を聞いていて、俺は少し疑問に思ったところがあったので、それについて言及してみることにした。
「シンさん、今
「うむ、まだ見つかっておらん。だが、国の内情が落ち着いた後……我は国王の座を降りるつもり故、その後の時間は無限にあるっ!!つまり、見つかるまで探し続けるのだ!!」
「は、はぁ…………。」
「というわけで、もし我がグリフォンを見つけたら手合わせをしてくれるか?」
「……わかりました。でも見つかったらですよ?」
「うむ!!約束だ。」
シンさんとがっちり握手を交わすと、そこでシンさんにも遂にお酒による睡魔が襲ってきたらしく、テーブルにうつ伏せになって寝息を立て始めてしまった。
それを見ていたミカミさんが、クスリと笑いながら口を開く。
「柊君と約束できたから安心したのかな?でも、よく了承したね?」
「う〜ん、戦うのは今でもあんまり好きじゃないんですけど、多分見つけられないんじゃないかなって思ったので……。それに、シンさんは国の内情が落ち着いたら王の座を降りるって言ってましたけど、そんなことにはならないんじゃないかなって思ったんです。」
「ふむ、どうしてそう思ったの?」
「この国の人達は、シンさんが国王じゃなくなることを望んでないと思うんです。」
「ん〜、確かに。シン君の人望ってかなり厚いみたいだからね。国民からの支持もすごく高いみたいだしね。」
そう言いながら、ミカミさんは空になった一升瓶を抱いて寝ているミクモさんのところへと飛んでいく。
「ミクモちゃんも、シン君に国王を続けてほしいって思ってると思う。だからまぁ、きっと大丈夫さ。」
ポンポンとミクモさんの狐耳を撫で回した後、こちらに戻ってくると、魔法瓶に日本酒を満たした。
「柊君、注いでくれるかな?」
「まだ飲むんですか?」
「もっちろん!!私は酒豪だからね。まだまだ飲むよ〜。あ、もちろん柊君も同伴ね?」
「あはは……お供させてもらいますよ。」
ミカミさんの妖精用のお猪口に日本酒を注いだあと、俺も日本酒をお猪口に注ぎ、2人で乾杯して飲み始めた。
「そういえばさ、柊君は今幸せ?」
「へ?いきなりどうしたんですか?」
唐突にそう問いかけてきたミカミさんに、思わずそう聞き返してしまう。
「い〜から答えてっ。今この世界で暮らしてて幸せかい?」
「そんなの、もちろん幸せに決まってるじゃないですか。こっちの世界には見たことのない美味しいものだってあるし、毎日を一緒に楽しくに暮らす人もできましたし……。」
「うんうん。」
「……とにかく、今こうやってみんなと一緒ににぎやかに暮らせてるだけで、俺は幸せですよ。」
「そっか。それならよかったよ。」
ホッと安心したように笑みを浮かべたミカミさんに、どうしてこんな質問をしてきたのか聞いてみることにした。
「急にどうしたんですか?そんな幸せか〜なんて聞いてきて。」
「いやいや、これは大事な聞き込みだよ。柊君が幸せじゃないと、私がここにいる意味がないし、そもそもこっちの世界に転生してもらった意味もなくなっちゃうからね!!」
あははと笑った後、ミカミさんは少し安心したような表情になって、ポツリと言う。
「とにかく良かったよ。キミの幸せが私の幸せなんだからね。」
慈愛に満ちた表情でそう言ったミカミさんは、そっと俺の頭を撫でてくれた。
そしてしばらくミカミさんと他愛のない会話をした後、俺達も眠りについたのだった。
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