第253話 豪華で賑やかな宴席


 シンさんとドーナさんを食卓に迎えて、いよいよみんなで一斉に食べ始めることとなったのだが……。美容に良いと知っているランさんとミクモさんは、メインであるサラマンダーそっちのけでアンゴロウ鍋に食らいついていた。


 そんな様子を不思議に思ったドーナさんが、サラマンダーのステーキを口に運びながら2人に質問を投げかけた。


「んっ!!サラマンダーの肉は初めて食ったけど、コイツはめちゃくちゃ美味いねぇ。ランとミクモは食わないのかい?」


「今はこっちのほうが大事なのよ!!……あっ!?ちょっとそのプルプルの皮っ、ワタシが狙ってたやつなんだけど!?」


「くっくっく、早いもの勝ちだぞ。」


 ミクモさんは、見せつけるようにアンゴロウのプルプルの皮を口に含むと、表情を綻ばせながら体をくねらせる。


「ん~~っ、プルプルモチモチの食感でクセのない味わい……いくらでも食えてしまいそうだの。」


「……いつも肉を食らえと言っていたミクモ殿が、今日は魚を貪っているのだ。ヒイラギ殿の料理は人さえも変えてしまうのか?」


 そして気になったのか、シンさんがアンゴロウ鍋に手を伸ばそうとすると、彼の前から具材がどんどん消えていく。


「むっ!?」


「はふっ、シン坊……この料理を食いたくば妾の速度に勝つのだな。」


「ワタシがいることも忘れないでよね。」


「うむむむ……これは難儀であるな。」


 そんなやりとりを眺めていたドーナさんが、ちょんちょんと俺の肩をつついて、アンゴロウ鍋について質問してくる。


「なぁ、ヒイラギ。あの魚の料理ってなんか秘密があったりするのかい?」


「実はあの具材になってるお魚なんですけど……どうもすごく美容にいいみたいなんです。」


「ははぁ〜ん?そういうわけかい。だからランとミクモががっついてるってわけだ。」


 納得しながらドーナさんは唐揚げを1つ頬張り、それを芋酒で流し込んだ。


「ドーナちゃんは美容とか興味ないの?」


「……無いって言ったら嘘になるねぇ。アタシだって女さ、その……やっぱり色々気を使ってるんだよ。」


 少し恥ずかしそうにしながらそう言ったドーナさんは、チラリとアンゴロウ鍋の方に視線を向けている。


「美容に良い……か。」


 すると、ドーナさんはミクモさんとランさんの一瞬の隙をついて、アンゴロウ鍋から具材を取ることに成功する。


「「あっ!?」」


「やっぱり独占はダメだよねぇ?アタシも食わせてもらうよ。」


 ニヤリと笑いながらドーナさんは、コラーゲンをまとっているアンゴロウの身を口の中に運んだ。


「はふ……身はふわふわなのにとろける感じで美味いねぇ。酒にも合うよ。」


 女性陣がアンゴロウ鍋でワチャワチャと楽しんでいる間、俺達はローストビーフやサラマンダーのステーキをじっくりと味わうことにした。


「このお肉おいひぃ〜っ!!口の中ですぐ無くなっちゃう!!お兄ちゃんご飯おかわり!!」


「ぱぱ…もっともっとたべたい!」


「自分ももっとご飯が欲しいっす!!」


「はいよ。」


 サラマンダーの肉を食べて、目をキラキラと輝かせているシアとメリッサ、グレイスの3人におかわりのご飯をよそう。


 少し落ち着いたところで、俺もサラマンダーの肉を1切れ口にすると……。


「んんっ!?これは……凄い。」


 それしか言葉が出てこない程、サラマンダーの肉は美味しかった……。口に入れて噛んだ瞬間、溢れ出した肉汁は旨味の爆弾のようで、それを味わっている間に肉がとろけていき、脂の甘味、コクが口の中で一体となっていくような感じ。


「あはは、美味しいよね柊君。こんな肉はやっぱりこっちならではだね。」


「間違いないです。」


 口の中でサラマンダーの味をじっくりと味わったあと、一度口の中をリフレッシュするために芋酒を飲む。


「ぷはっ、美味しい料理に美味しいお酒……暴力的な組み合わせですね。」


「んね〜、ホント幸せ。」


 ミカミさんはリクエストのあった、あん肝ポン酢を食べて、それを肴に芋酒を嗜んでいる。


「さて……そろそろ私も、あの戦争に混ざってこようかな。あの鍋はやっぱり味わっておかなきゃね。」


「あ、それなら大丈夫ですよ。」


 俺はもう一つ用意していたアンゴロウ鍋を、即席のコンロと一緒にテーブルの上に置いた。


「あれ?もう1個あったの?」


「多分取り合いになるだろうなぁ〜って思って、用意しておいたんです。」


「さっすが、準備がいいね。じゃ、こっちはこっちで楽しませてもらおっか。」


 もう一つ用意していたアンゴロウ鍋を火にかけて煮込み始めると、向こうの争奪戦で野草の欠片しか取ることのできなかったシンさんが、空いていた席に腰掛けた。


「む、向こうは無理だったのだ。あの3人の中には入って行けぬ。」


「あはは、美容を前にした女性は、普段より力が湧いちゃうからね。まま、こっちで一緒に飲もうか。」


「うむ、そうさせてもらうのだ。」


 ミカミさんは、シンさんの空になっていたお猪口にお酒を注ぐ。


「はい、どーぞ。」


「感謝するのだ。」


 シンさんはそれを一気に飲み干すと、今度はミカミさんにお酌する。


「くはっ、ミカミ殿も一献……。」


「ありゃ、王様直々のお酌かぁ。これは丁寧に飲まなきゃね。」


 そう言いながらもミカミさんは、お酌された芋酒をグイッと一気に飲み干した。そんなやりとりをしている間に、こちらの鍋もコトコトと音を立て始めた。


「そろそろ良いですかね。」


 蓋を開けてみると、すっかりいい感じになったアンゴロウ鍋が湯気とともに姿を現した。


「はい、もう食べ頃ですよ。」


「うむ!!ではいただこう!!」


「柊く〜ん、私にも取って〜。」


「はいもちろんです。シアたちもまだ食べれるかな?」


「お魚食べた〜いっ!!」


「ちょうだいっ!」


「自分も取って欲しいっす〜。」


 そしてみんなでアンゴロウ鍋も味わった後、シメの雑炊まできっちりと味わって、本日の夕食は幕を閉じた。


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