第32話 マジックバッグ改造計画


 なんやかんやありながらも、お風呂でさっぱりして宿屋に戻った俺は、自分のマジックバッグを改めて見つめなおしていた。


「マジックバッグをそんなに見つめてどうしたんだい?」


「今日、想像魔法の使い方をミカミさんに教えてもらったじゃないですか。」


「うん、そうだね。」


「アレを使えば、このマジックバッグの容量も無限にできるんじゃないかなって。」


「おぉ、なるほど!!その方法があったね。」


「ただでもどうイメージすればいいのかわからなくて、悩んでたところなんです。」


 無限っていうイメージは、頭の中で思い浮かべるには難しい。なぜなら、身近にそんなものはなかったから。だからこそ、何をイメージすれば無限の空間が出来上がるのかがわからない。


「確かに無限というものは私達の生活の身近にあるようなものではなかったからね。想像することが難しいのは無理もない。でも、想像力によってはできないことじゃないと思うよ?」


「どうすればいいんです?」


「例えばだけど、袋の中に遠くが見通せないほどの広大な空間をイメージするんだ。殺風景だっていい、とにかく広くてどこまで歩いても同じ景色がず~っと続いているようなイメージ。」


「なるほど……。」


 俺はマジックバッグを手に持ちながら、今ミカミさんが教えてくれたイメージを強く頭の中で思い浮かべた。イメージするのが難しいから、目を閉じてイメージしているけど……これは成功しているのだろうか?


「あ、いい感じだよ柊君。魔法陣が徐々に形成され始めた。今度はそのイメージを持ちながら、自分が思ったものを取り出せる本来のマジックバッグの性能を頭で思い浮かべていこう。」


 ミカミさんの補助のもと、頭の中でイメージを膨らませると、体から一気に何かが抜けていった感覚が襲い掛かってきた。


「っ!?ぷはっ!!い、今何かが体から……。」


「今回、イメージするものの規模が大きかったから、大量の魔力が体から抜けてしまったみたいだね。でも何とか魔法陣は完成しているよ。」


 俺が手に持っていたマジックバッグに目を向けると、さっきまではなかった複雑な魔法陣がバッグに刻まれている。


「これって成功したんですかね?」


「恐らくは……ね。今は無制限になったかどうか確認するのは難しいけど、とりあえず普通にマジックバッグとして機能するのか、確かめてみたらどうかな?」


「そうですね。」


 俺は試しにポンポンオランを取り出したいと思いながら、マジックバッグの中に手を入れた。すると、思っていた通りポンポンオランを一つ取り出すことができた。


「あ、できました。」


「うん、なによりだね。この様子ならちゃんと容量も無制限になってそうだけど……その確認は後日にしよう。」


 この日は、寝る前にミカミさんとポンポンオランを食べてからベッドに横になった。



 翌日の明朝……俺はミカミさんと一緒にこの町の朝市にやってきていた。昨日寝る前に想像魔法で容量を無制限にしたマジックバッグの効果を確かめるためだ。


「お~、海がない町だけど意外とお魚も入ってきてるんだね。」


「ちゃんと海とかで獲れたものを運ぶ手段が確立されてるんじゃないですか?」


「かもね。せっかくだし買っていくかい?」


「う~ん……。」


 俺は店頭に並べられている見たことのない魚に顔を近づけて、じっと観察してみる。


(鱗がところどころ剥がれてる。目も濁ってるし、エラの色も悪い……。この町まで運んでくることはできているけど、たどり着くまでにかなり鮮度が落ちてしまっているようだ。)


「お魚は海町に行った時に買いましょっか。」


「柊君がそう言うならそうしよう。」


 お金があるからと言って、無理に鮮度の悪いものを買う必要はない。それこそお金の無駄になる。そう判断し、俺達は一度魚屋を後にして今度は肉屋へと足を運んだ。


「ここはお肉屋さんだね。」


「魚はちょっと鮮度がアレでしたけど……肉はどうでしょうね。」


 ガラスケースに並んでいる肉に目を向けてみるが、色は鮮やかで鮮度は悪くはなさそうだ。


「いらっしゃいお兄ちゃん達、何の肉をお探しだ?」


「あ、これと言って何を買おうって決めていたわけじゃないんですけど、何か美味しいお肉があれば買おうかなって。」


「そういう事なら、今朝入って来たばっかのオークのロース肉なんかどうだい?」


「オークのロース肉……。」


 昨日マイネさんのところのお店で食べたのは、確かオークエリートの肉だったような……。あれともまた違うのかな?


「このオークは討伐した瞬間に血と内臓を抜いてあるから臭いはねぇ。保証する。」


「じゃあ……それを1㎏ください。」


「毎度っ!!ブロックで持ってくかい?」


「あ、半分は薄くスライスしてくれると助かります。」


「あいよ、じゃあ先に料金だけ頂いとこうか。オークのロース肉1㎏で大銀貨8枚だ。」


「金貨でお願いします。」


 そしてオークのロース肉の薄切り500gとブロックで500g……合計1㎏購入して、俺とミカミさんはまた違うお店へと足を運んでいく。


 今ふと思ってしまったのだが……無制限になったかどうかを確認するのって、すごく難しいことなんじゃないだろうか?そもそも確認のしようはあるのかな……。


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