食欲が全てを上回る時…


 しばらく経つと、プシュプシュと音を立てていた圧力鍋がすっかり落ち着いて、中を確認できるようになった。


「さてさて、どんな感じになってるかな。」


 圧力鍋の蓋を開けてみると、すっかり煮汁の色が染み込み、美味しそうな色へと変化しているオークのバラ肉が見えた。


 それを箸で持とうとしてみると……。


「っと、良い感じに柔らかくなってるな。」


 持ち上げる途中で崩れてしまいそうだったので、そっと戻す。


「オークの角煮はばっちりだ。それじゃあ一気に次の料理も仕上げよう。」


 今度はロース肉と、櫛切りにしたオニオスをフライパンで焼いていく。


 ロース肉に火が入り、オニオスが透明になり始めたら……。


「ここで特製の合わせ調味料をぐるっと回し入れる。」


 この合わせ調味料は、砂糖、醤油、酒、味醂と出汁……そしておろし生姜を混ぜ合わせたもの。


「あとは、この汁を飛ばすように炒めてやれば……。」


 液体が蒸発して、すっかりロース肉と玉ねぎに色がつき、生姜の香りがフワリと香ってきたタイミングで火を止めた。


「よし、オークのロース肉の生姜焼き……完成っ。」


 オークの生姜焼きは、山盛りの千切りキャベツと一緒に盛り付けた。


 そして出来上がったオークの角煮と生姜焼きを、集まっていたみんなの前に配膳していく。


「ほい、今日はオークの肉で作った角煮と生姜焼きだ。」


 配膳された料理を、くんくんとランが匂いを嗅ぐと、一つ大きく頷いた。


「うん!!あの臭いはまるっきりないわね。けど、この香りは違う意味でワタシを刺激してるかも。すっ……ごく、お腹へったわ!!」


「はは、それは良かったよ。」


 俺も席について手を合わせると、みんなも待っていましたとばかりに手を合わせた。


「いただきます。」


「「「いただきま〜す!!」」」


 そしてみんなでオークの肉を堪能していると、屋敷の二階からフラフラとグレイスが飛んできた。


「う〜、肉っす〜。自分も食べたいっす〜!!」


「あらあら、発情を食欲が上回ったのね。」


「美味しそうなお肉の匂い嗅いだら、そんなの吹っ飛んだっす!!ヒイラギさん!!自分にもご飯山盛り欲しいっす!!」


「はいよ、今持ってくる。」


 すっかり元気になったグレイスは、誰よりもお代わりして、誰よりも多くオークの肉を食べたのだった。

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