オークの臭い


 ギルドを出ると、そこには何故かグレイスが待機していた。


「やっとヒイラギさん出てきたっす!!」


「グレイス、こんな所で何してるんだ?」


「ドーナさん達からの伝言を伝えに来たっす。」


「伝言か、聞かせてくれ。」


 すると、グレイスはわざとらしくコホンと一つ咳払いをして、ドーナの口調と声色を真似しながら伝言を話し始めた。


「え〜コホン、『アタイら家の家具の事について、ミルタと話してくるよ。ヒイラギもギルドでやることが終わったらミルタの店に来て。』……だそうっす!!」


「あぁ、伝言の内容はよく理解できたが……それ、わざわざドーナの口調と声色を真似して言う必要あったか?」


「大事っすよ!!ちゃんとどんな状況なのか、それも伝えないといけないっすから。」


「そ、そうか。」


 そこはグレイスのこだわりというやつなんだろうな。あまり深く突っ込むのも野暮というものだ。


「で、グレイスは一人でその伝言を伝えるためにギルドに来たってわけか。」


「その通りっす!!」


「じゃあこの後特に予定とかは無いんだな?」


「へ?特に無いっすけど……。」


「じゃ、俺についてきてくれ。」


 そして俺はグレイスを連れて、エミル樹林へと向かう。すると、森の中に入る前にグレイスが何かを感じ取った。


「うぇぇ、この森からオークの臭いがするっす。」


「そんなに、臭うか?俺は特に感じないんだが……。」


「めちゃくちゃ臭うっすよ。オーク特有のオス臭い変な臭いっす。」


 グレイスは思わず鼻をつまんでしまっている。


「実はこの森に引っ越してきた、オークの一団の殲滅を頼まれたんだよ。」


「うぅ、オークは臭くて嫌いっす。でも不思議なことに、オークの肉って美味しいんすよね。」


「オークの肉って食えるのか?」


「脂ののった豚肉って感じっす。」


「ふむ、そうか。そいつはちょっと気になるな。」


 ただの消化依頼のつもりだったが……そうとなれば話は別だ。


「魔物の解体なら、ジルの所に持ってけばいいかな。」


 熟練のグリズ達に任せれば、まぁ間違いないだろう。


「よし、いっちょ片付けるとするか。グレイスは……ここで待ってるか?」


「い、一緒に行くっす!!」


 すると、グレイスは俺の胸ポケットの中へスポンと飛び込み、その中で大きく深呼吸していた。


「こ、ここなら大丈夫っす〜。えへへへ……。」


「ま、まぁあまり無理はしないように。」


 そしてグレイスを連れて、オークの一団がいるというエミル樹林の中へと足を踏み入れるのだった。



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