バフォメットと盃を


 ドーナ達が屋敷を見て回っている間、俺は一人ギルドを訪れていた。そして受付に向かうと、ミースを呼んできてもらう。


「あ、ヒイラギさんおはようございます!!」


「おはようミース。ちょっとダンジョンに入りたいんだが…。」


「ダンジョンですね、お一人……ですか?」


「あぁ、ちょっと今日は一人で行きたくてな。」


「分かりました。では、こちらへどうぞ。」


 ミースに案内されて、ギルドの地下にあるダンジョンの入り口まで向かった。


「ヒイラギさんなら大丈夫だとは思いますけど、念の為気をつけてくださいね。」


「あぁ、わかってる。それじゃあ行ってくるよ。」


 そして、俺は一人でダンジョンの入り口を潜り、ダンジョンへと潜入した。


 ダンジョンの中は変わらず、一階は迷路、二階は森林……三階は海で、四階がアイツのいるボス階層だ。


「さて、アイツ元気にしてるかな。」


 ボス部屋の巨大な扉に手を触れると、ゆっくりと扉が勝手に開いていき、ボス部屋の中が露わになる。


「クックク、待っていたぞ!!」


 中央に鎮座していたバフォメットは、俺の姿を見るなり、歓喜しながら凄まじい勢いで向かってくる。


「おっと、今日は戦いに来たわけじゃないんだ。」


「むっ!?」


 飛びかかってきたバフォメットに制止の声をかけると、奴はピタリと止まった。


「では何をしにここへ来たというのだ?」


「今日はお前と飲みに来た。」


 俺はどっかりと地面に座り込んで、マジックバッグから獣人族の国の特産品である芋酒を取り出した。


「それは……酒か。」


「あぁ、お前には随分と世話になったからな。一緒に酒を飲みたいと思ったんだ。」


 そう言うと、バフォメットはくつくつと笑った。


「ククク、ダンジョンのボスである我と酒を飲み交わしたいなど……そんなことを言った人間は、ヒイラギ…お前が初めてだ。」


 そしてバフォメットも俺の前にどっかりと座った。


「ま、悪くないだろ?」


「まぁな。」


 バフォメットの盃に、俺はなみなみと芋酒を注いだ。


「我からもくれてやる。」


「ん。」


 するとお返しと、バフォメットも俺の盃に芋酒を注いできた。


「ほんじゃ、乾杯。」


「うむ、乾杯だ。」


 お互いの盃を天に掲げて、俺達はグイッと盃に注がれた酒を飲み干した。

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