スピットパイン


 料理を一口味わっては、シンやカリンにまで酒を盃へと注がれる。まるで俺の周り全員が敵に回ってしまったかのような状況だ。


「流石のヒイラギもそろそろ酔いが回って来たのではないか?」


「いつもなら強がって、そんなことないって言いたいが……流石にこのペースはなかなか来るものがある。」


「先日は不覚をとったが、今日こそは社長を酒に溺れさせてやるぞ!!」


「ぐっ……。」


 これは不味い。何かこの二人を止める方法はないか?


 方法を模索していると、俺の目にある果物が目に入った。


(これだッ!!)


 これを使えば、何とか逆転ができる。


「二人とも、これを食べてみてくれ。」


「これは……なんだ?」


「何とも甘い香りのする果物だの。」


 不思議がりながら、二人は例の果実を口の中へと放り込む。すると、次の瞬間……。


「むぅっ!?」


「こ、これは……酒精が含まれているのか!?」


 たった一切れ食べただけで、二人の顔が一気に赤くなる。それだけこの果実に含まれているアルコールが強いということだ。


 それを見たエートリヒが、口を開いた。


「酒精を含んだ果実……貴公、これはもしやマーレの途中の林の中で採ったのではないかね?」


「なんでわかったんです?」


「これはマーレの海賊達の間で、酒の強さを競い合う時に使われる果実なのだよ。名をスピットパインというんだ。」


「スピットパイン……。」


「完熟した果実には、酒豪でさえ一口食べれば潰れるほどの酒精が含まれているというが……コレがそうなのだろうな。」


 エートリヒも一口食べてみると、みるみるうちに顔を真っ赤にしてしまっていた。


「くはっ!!な、なるほどこれは酒豪でも潰れるというのは理解できる。」


 だが、ギリギリのところで意識を保っているあたりエートリヒもかなり酒は強い方らしい。


 そして俺は改めてシンとカリンの二人の方を向くと、切り分けたスピットパインをフォークで刺して口元へと近づける。


「さぁ、たくさん俺に酒を注いでくれたからな。俺からのお返しだ。断るなんて野暮なことはしないよなぁ?」


 二人の顔が引き攣り始めたが、そんなことは関係ない。お返しは受け取ってもらわないとな。


 それから二人は、三切れほどスピットパインを食べると、ベロベロに酔っ払い伏したのだった。

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