ミクモの新たな試み


 ミルタさんにジルを紹介した後、一人街の中をぶらぶらと歩いていると、突然背後から何者かに抱き着かれた。


「こ~んなところを一人でほっつき歩いて、何をしておるのじゃ~お主よ?」


「ミクモか。急に抱き着かれるとビックリするんだが?」


 わざとらしくミクモは、ぐいぐいと背中に胸を押し当ててくる。


「良いではないか、良いではないか~。妾のような絶世の美女に抱き着かれておるんじゃぞ?オスとしてはこれ以上ない至福であろ?」


「あいにく、俺はそういう過度なスキンシップは苦手なんだ。」


「むぅ……そうか。」


 以外にもあっさりとミクモは離れてくれた。そして横に並ぶと、街中を歩く人間の行商人に視線を向けながらぽつりと呟いた。


「少しずつ100年前の姿が戻ってきたのぉ。」


「今はまだ二種族だけだがな。昔はここにエルフもちらほらいたんだろ?」


「そうじゃな。友好的なエルフが薬草やら果実やらを売り歩いておった。」


 100年前のように、三種族が仲良くできるようになれば……理想的なんだがな。それはまだ難しい問題だ。


「エルフとどうにか接触できないかな……。」


「お主、まだあきらめておらんのか?」


「当たり前だ。こんな感じで獣人と人間も仲直りできたんだ。きっとエルフともできるはずだ。」


「まぁ、人の王も変わったしのぉ……接触さえできれば可能性は、無いことは無いかもしれんな。」


「あぁ。」


 本当に接触さえできれば……光明が見える。ただ、エルフは完全に人間とも獣人とも、関係を断ち切って生活しているらしいから、それすらも雲をつかむような話だ。


「それはそれとしてじゃ!!お主、ちょいと妾に付き合ってたも。」


 ぐいぐいとミクモに手を引かれる。


「何かするのか?」


「それは来てからのお楽しみじゃな。ほれほれ、こっちじゃ~。」


 そしてミクモに手を引かれて、とある家の中へと連れ込まれた。そこには、何に使うのか……いろいろな設備が置かれている。その中で一つ……見覚えのあるものがあった。


「ん?これは……。」


「気づいたか?」


「あぁ、これ豆腐を作るやつだろ。」


「その通りじゃ!!妾は服屋を営む傍らで、豆腐作りも始めたのじゃ~!!」


 そしてミクモは、お皿の上に柔らかそうな豆腐を乗せて俺に差し出してきた。


「これは試作品第一号の豆腐じゃ。早速食うてみてくれ。」


「わかった。」


 手渡されたスプーンで豆腐を切ってみると、その柔らかさがダイレクトに伝わってくる。濃厚な豆乳をそのまま固めている証拠だ。

 いざ口に運んでみると、とても滑らかな食感で、濃厚な豆の甘みが口いっぱいに広がった。


「うん、よくできてる。豆乳もいい物を使ってるな。かなり完成度が高い。」


「おぉ!!このまま売っても売れるかの?」


「売れると思う。何なら俺が買うさ。」


「本当か!?」


 これを使えばいろんな豆腐料理ができるだろう。ちょうど、少しずつ気温が下がってきたこれからの時期には重宝する。なんていっても、鍋料理には欠かせないものだからな。


「あ……そうだ、今魔物肉専門店に人間の商人が来てるんだが、その人ならきっといい値段で買い取ってくれると思うぞ?」


 そう話しているうちに、ミクモの姿は消えていた。


 後日両国で、……と銘打った物が、一世を風靡したのだった。


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