良い商いを
ミルタさんを案内してきたのは、魔物肉専門店。ここの店主のジルならば……人の国で顔が広いミルタさんと良い取引ができると踏んだのだ。
「ここは魔物肉専門店というお店です。」
「魔物肉専門店……その名の通り、魔物の肉を扱っているお店ですか?」
「はい、なかなか珍しいでしょう?」
「えぇ、私たちの国でも魔物の肉を食べる文化はありますが……このように専門的に扱っている商人はおりません。これも文化の違いというものですな。」
そしてミルタさんとともに中に入ると、早速ジルが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませヒイラギ様、お久しぶりでございます。」
「久しぶり。商いは順調かな?」
「はい。サラマンダーの肉が大盛況で……飛ぶように売れております。」
「それはよかったよ。」
すると、ジルは俺の隣にいたミルタさんに目を向けた。
「ヒイラギ様、こちらの御方は?」
「あぁ、俺の国では名の知れた商人さんだ。」
「おぉ、そうでしたか。失礼、ご挨拶が遅れてしまいました。私、当店の店主を務めております。ジル…と申します。以後お見知りおきを。」
ジルが自己紹介をして、ぺこりとお辞儀をすると、ミルタさんもあわてて自己紹介を始めた。
「ご、ご丁寧にありがとうございます。私はミルタと申します。ご紹介にあったように、人の国で商人をしております。」
二人の自己紹介が終わったところで、俺はジルに今日訪ねてきた要件を早速伝えた。
「実は、ミルタさんがこの国で取引相手を探してるらしくて。ミルタさんなら人間の国にしかいない魔物の肉も仕入れられるし、ジルにとってもいい取引相手になるかもと思って連れてきたんだ。」
「なるほど、そういうことでしたか。確かに人間の国にしかいない魔物には、かなり興味をそそられますなぁ。」
ジルは顎髭に手を当てながら何度も頷いた。好印象を抱いているジルに、ミルタさんがここぞとばかりに畳みかける。
「ご要望があれば定期的に様々な食用にできる魔物を、できうる限り安値でお譲りいたします。もちろん希少な魔物も優先的にお譲りします。い、如何でしょう?」
「ほっほっほ、そこまで言われては断る理由はございませんな。もとより、ヒイラギ様の紹介ですから断るつもりもありませんでしたが……。あなたの目を見て、きっとお互いに良い商いができると確信いたしました。」
ジルはそう言って笑うと、ミルタさんに手を差し伸べた。
「共に良い商いをいたしましょう。」
「おぉ!!か、感謝いたします!!」
そして二人は熱い握手を交わしていた。その後これからどういう形でお互いに取引をするのか、綿密に話し合っていた。
俺がミルタさんにできる手助けはここまでだ。後はきっとジルの人脈やら何やらをうまく使って、取引相手を増やしていくだろう。
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