未来へ繋がるお礼


 喫茶店に入り、お互いに飲み物を頼むと、会談を始めた。


「わざわざ王都まですみません。」


「いえいえ、ちょうど王都で仕入れの仕事がありましたので。そういえば、戦争も白紙に戻ったおかげで、市場の価格が落ち着いてまいりましたよ。これで安心して商いができます。」


「ホント、一安心ですよ。」


 戦争というものが中止になったおかげで、ミルタさんたちのような商人も助かっているようだ。


「それと、以前ヒイラギさんが探していたエートリヒさんが、国王の後継者として名乗りを上げましたな。なにかヒイラギさんが仕向けたのですかな?」


「さぁ、どうですかね?」


 俺の答えにミルタさんは一瞬笑い、何かを確信したようだ。


「今回はその時のお礼をしたかったんですよ。」


 俺はバッグから獣人の国で買った芋酒と、二冊の本を取り出した。


「これをあの時のお礼に差し上げます。」


「これは?見たことがない文字ですが……。」


「その瓶に入っている液体は、芋酒と言って芋から作ったお酒です。」


「なんと、芋から酒が造れるのですか!?そんな技術聞いたことがありませんぞ!?」


 やはりこの国には芋から酒を造る技術はないようだ。ブドウから酒を造る技術はあってもな。そして驚くミルタさんに続けて言った。


「驚くのはまだ早いですよ?こっちの本を見てみてください。」


「この本は私たちの言語と、さっきの読めない文字が……。」


「それには獣人族の言葉と人間の言葉が書いてあります。全部読み終わるころには、獣人族の言葉を話せるようになってますよ。」


「これを一体どうして私に?」


 いきなりこんなものを渡されて、少しミルタさんは戸惑っている。


 だが、これは後々のことを考えて渡したのだ。これから先、獣人族との貿易などが始まることだろう。その商売の波に真っ先にミルタさんが乗れるようにな。


「いずれわかりますよ。その本を読むか読まないかは、ミルタさん次第ですが……一つだけ言えるのは、それを読んでおけばこれからの商いの流れに乗ることができます。」


「そ、そこまでですか……わかりました。」


 俺の言葉に推され、ミルタさんは読むことを決意したようだ。これできっと、これからのお金の流れにミルタさんが乗り遅れることはないだろう。


 獣人族との同盟が成立すれば商いもどんどん盛んになっていく、ほとんどの商人は獣人語がわからずに一足乗り遅れてしまうはずだ。今回ミルタさんにエートリヒのことを教えてもらわなかったら、戦争を止められなかったから、これぐらいお礼は返しておかないと。


 そうして、お礼をした後、俺とミルタさんは喫茶店で少し世間話をして別れた。


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