圧倒的捕食者


 無人島の浜辺でブラックフィッシュの背中から降りた。


「ありがとな、帰りもお願いできるか?」


「キュイ!!」


「助かるよ。じゃあちょっと行ってくるからな。」


 ポンポンと彼の頭を撫でて、俺はランとともに無人島を観察する。


「さてさて、着いたのは良いが……それらしい気配はないな。」


 辺りの気配を探るが、それといって大きな気配はない。本当にいるのか思わず疑いたくなってしまう。


「ホントにいるのかしらね?」


「また気配を消せるスキルを持ってるやつかもしれないな。」


 ミクモみたいに、完全に気配を消せるスキルを持ってたりしたら厄介だ。気を付けないとな。


「めんどくさそ〜。」


 露骨にランが嫌な顔になる。まぁ、めんどくさそうな相手ということには、激しく同意できる。


「さて、浜辺でうろついてても仕方ないし……森の中を探索してみるか。」


 森と言うよりは密林に近いかな?なんか南国に生えてそうな植物がいっぱい生えてるし……。


「そうね、行ってみましょ。」


 そして密林の中へと足を踏み入れる。密林の中は湿度が高くジメッとしているため、少し居心地が悪い。


「……おかしいわね。」


 密林の中を歩いていると不意にランが呟いた。


「どうかしたのか?」


「おかしいとは思わない?これだけ生き物にとって住みやすそうなところなのに、一匹も生き物がいないのよ。」


「そういえばそうだな。」


 この島についてから鳥の鳴き声も聞こえない。歩いている途中でも虫一匹として見ていないのだ。


「なんか、サラマンダーの時のデジャヴを感じるな。」


 サラマンダーがいた火山も、あいつ以外の生き物がいなかった。違和感を覚えながら歩いていると、島の反対側の砂浜へと出てきてしまった。


「反対側に出てきちゃったな。」


「結局そのシーデビルってやつは出てこなかったわね。」


「仕方ない。来た道を戻るか。」


 踵を返して戻ろうとしたその時……グチャリと何かがつぶれるような音がした。


「ラン今の聞こえたか?」


「えぇ、聞こえたわ。あっちの方からよ。」


 急いでその音の発生源へと向かう。すると浜辺にあるものが打ち上げられていた。


「これは……鯨か!?」


 音の発生源には、体長数十メートルはあろうかという鯨が浜に打ち上げられていた。その鯨の傍らに、もう一匹……ある生き物がいた。


 そいつは鯨の腹にかぶり付き、肉を引きちぎり咀嚼している。


「どうやらアイツがシーデビルってやつらしいな。ラン、ここで待っててくれ。ちょっと行ってくる。」


「気をつけてね、ヒイラギ。」


 岩陰でランを待機させ、俺は鯨の内臓を麺でも啜るかのように食べているヤツに近づいた。

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