差し入れ


「ぱぱ…おきて。」


 メリッサにユサユサと体を揺さぶられ、目を覚ました。


「ん……おはよう、メリッサ。」


「おはよ…ぱぱ…だれか…きてる。」


 メリッサが扉の方を指差して言った。するとコンコン……と確かに誰かが扉をノックしている。


 こんなに朝早くに誰だろうか……大きく一回欠伸をしてから扉を開けた。


「あっ!!人間さん、おはようございます~。」


「……またご飯でもたかりに来たか?」


 扉の先には、またしてもウォータードラゴンがいた。しかも背中に何かを大きな物を背負っている。


「あはは~……そ、そうなんですけどぉ。こ、今回はちゃんと私が食材を用意してきましたぁ~。」


 そしてドン……と彼女は背負っていた物を、俺に見えるように置いた。


 彼女が背負っていたのは巨大な網だった。しかもただの網ではない、魚をとるやつだ。


「ず、ずいぶんたくさん魚をとってきたんだな。」


 網のなかでは、まだ生きている魚がたくさんピチピチと元気よく跳ね回っていた。


「頑張ったんですよぉ~。これを持って湖の中を何周もぐるぐる回ったんです~。そ、それでなんですけど、これぐらいあれば料理ってできますかぁ?」


「充分すぎる。むしろ多いぐらいだ。」


 これだけの量の魚を全て捌くのは骨が折れそうだ。まぁ小さいやつは内臓と鱗だけ取って、そのまま唐揚げにすればいいかな。


 大きいのは……うん、捌かないわけにはいかなさそうだ。


「よ、よかったです~。安心しましたぁ~。」


 彼女はホッと胸を撫で下ろしていた。


 これを使って作った料理は、大半を彼女が食べ尽くすんだろうな。これだけ多種多様な魚がいたら、作る料理も数多くなる。

 となれば今日は朝からバイキング形式にするべきだろう。流石にあのテーブルに料理を全て並べるのは無理だ。


「ま、取りあえず全部バッグにしまってから調理を始めるとするか。網は後で返すよ。」


 大量の魚が入った網を一度バッグの中にしまいこむ。


「よし、じゃあ中に入って休んでてくれ。メリッサ、もし誰か起きても、厨房には絶対に入れないようにしてくれるか?」


「うん…わかった。」


「ありがとう。メリッサも危ないから入ってきちゃダメだからな?」


「うん。」


「いい子だ。」


 ポンポンとメリッサの頭を撫でる。


 そして仕込みの段取りを頭で考えながら、俺はロッカールームへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る