マジックバッグの異常


 ひとまず最初の目標地点は、前にベルグと会ったあそこの街だな。

 普通の馬よりグレイスの方が速いから、余裕で着けるとは思うけど……。なるべく休憩を挟みながら行きたいから、長い目で見ておこう。


「お兄さん!!」


 ぴょこんと後ろの馬車からシアが顔を出して俺の名前を呼んだ。


「ん?どうした?」


「シアお腹減っちゃった……。」


 そういえば今日はまだ朝御飯を食べていなかったな。だが、こんなときのために色々と作り置きはしてある。


 俺はあるものを思い浮かべながら、マジックバッグに手を入れた。

 そして掴んだものを引っ張り抜くと……。


「きゃっ♪ヒイラギさん朝から大胆ですね♪」


「………………。」


 何も見なかったことにして、すぐにバッグの中に手を戻した。


 おかしいな……。思ったものと違うものが出てきたんだが。まぁ何かの間違いが起こったのだろう。


 きっともう一回やればちゃんと出てくるはずだ。そう信じて、俺はもう一度マジックバッグに手を入れて掴んだものを取り出した。


「ヒイラギさんが取り出したかったものはこの銀の包みに包まれた物ですか?それともわた…………。」


「………………。」


 再び誤って取り出したものをバッグの中へと戻した。


 ダメだ。物にはやはり寿命というものが存在するらしい。このマジックバッグもついに壊れてしまったようだ。

 この世界に来てからこれにはずいぶん助けられた。だが、壊れてしまったものは仕方がない……。黙ってハウスキットを使って料理するか…ってハウスキットもこの中だった。


 大事なものは全部この中に入れていた。まさかこんなに速く壊れるとは、思ってもなかったからな。


 …………とまぁ冗談はこの辺にしておくか。


 俺は再びマジックバッグに手を入れて、掴んだものを取り出した。


「……おはようイリス。」


「ふふっ♪おはようございますヒイラギさん。」


 マジックバッグから俺に掴まれて出てきたのはイリスだ。昨日の宴会の時に一杯のお酒で気持ち悪くなってこの中に退避していたが、どうやら二日酔いなんかはないらしいな。


「相変わらず元気そうだな。」


「はい、私はいつだって元気ですよ?」


 にこにこと眩しい笑顔を浮かべながらそう答えるイリス。昨日の宴会の時の姿を鏡で見せてやりたい。


「それでイリス?さっきの銀の包みはどこにやった?」


「ちゃんとありますよ~。」


 するとイリスは、バッグの中から籠に入った大量の銀の包みを取り出した。


「ちなみにこれは何ですか?」


「これが今日の朝食だよ。」


 そして、俺は後ろの馬車に乗っているみんなに声をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る