帰還の旅の始まり


 グレイスに馬車の装備を着け終えたところで、王宮からリリン達とシンがこちらに歩いてきた。


「待たせたなヒイラギよ。」


「いや、ちょうどよかったよ。今グレイスに馬車の装備を着け終わったところだ。」


「大きな馬車ね……。私達みんな乗ってもまだ余裕があるんじゃないかしら?」


 リリンは馬車を見上げながら言った。


「多分大丈夫だろうな。」


「これだけ大きいと並の馬じゃ引けないでしょうね。」


「だからグレイスに引っ張ってもらうんだ。」


 この馬車を買ったとき、店の人があの街にいた馬じゃ引けないと言っていた。あの後、ランがいきなりグレイスを連れてきて驚きはしたが、今となってはグレイスがいてくれて助かっている。


 ふとここで気になったことがあったので、リリンに質問することにした。


「そういえば……リリンはどうやってこの国に来たんだ?」


「私?行き先指定の転移魔法陣で来たけど?」


 そんなものもあるのか……。多分一瞬で場所を行き来できるやつなんだろう。

 まったく、便利なものもあるんだな。


「それってもう使えないのか?」


「残念だけど、一度しか使用しかできない魔法陣だったからもう使えないわ。」


 使いきりタイプってやつか。やっぱり無限に使うことは難しいのかな?


 でもどこかへ一瞬で飛べる魔法陣なんて、夢があるよな。後でちょっと調べてみるか。


「よし、それじゃあそろそろ行こうと思うけどどうだ?」


「我は構わぬ。」


「私も大丈夫よ。」


「わかった。それじゃあみんな馬車に乗ってくれ。」


 みんなに馬車に乗るように促した。


「えへへぇ~、シアがいっちば~ん!!」


「あっ!?ズルいボクも!!」


 シアとフレイが競うように馬車の中に入っていった。それに続いてぞろぞろと他のみんなも馬車の中へと入っていく。


「よし、じゃあ俺はいつも通り……いよっと!!」


 俺は馬車の運転席に腰かけ、手綱を握る。


「グレイスよろしく頼むな?」


「任せてくださいっす!!この前通ってきた穴のとこに向かえばいいんすよね?」


「あぁ、それで大丈夫だ。」


「了解っす!!それじゃあ行くっすよ~!!」


 そしてグレイスが馬車を引っ張り始めると、ガラガラと車輪が回転し、前へと進み始めた。


 いざ大通りへ出ると、獣人のみんながこちらに手を振ったりしてくれた。

 シンも馬車から顔を出して、みんなに手を振っているから、さながらパレードみたいになってしまっている。


 こちらを見送る獣人達の中には、ここでお世話になったジル達も混ざっていた。

 彼らに盛大に見送られ、俺達は王都を出発したのだった。

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