芋酒の試飲


「次はミルタさんへのお土産を買いに行こう。」


 何を買えば喜ばれるだろうか……無難なもので言えば菓子折りか?

 だが、菓子折りだったら自作のケーキを持っていった方が喜ばれる……かもしれない。


 となれば、獣人族特有の物を買った方がいいな。


「一度大通りに出て探してみるか。」


 市場を抜けて大通りへと戻る。そして立ち並ぶ店をキョロキョロと見渡しながら歩いていると……。


「あれは……。」


 俺の目に飛び込んできたのは芋酒のお店だ。記憶が正しければ、シュベールの飲食店でメニューを見たとき、アルコールのメニューはあったが葡萄酒しかなかったはず……。

 確かシンも芋酒は獣人が開発したものと言っていたから、これはこの国オリジナルのものとみて間違いないだろう。


「ミルタさん酒飲めるかな。」


 俺より年上だし、商人だから取引先の人物と酒を飲み交わすこともあるはず。

 飲めると信じて買ってみるか。


「すみません。」


「いらっしゃいませ!!芋酒をお探しですか勇者様?」


 元気溢れる接客はとても気持ちがいいものだ。


 しかし、大声で勇者と呼ばれるのは少し恥ずかしい。そんな俺の心を感じ取ったのか、イリスが後ろでクスクスと笑っている。


「この店でオススメのをちょっと見せてほしいんだ。」


「かしこまりました!!少々お待ちくださいませ~。」


 すると、店の奥からいくつかコップに注がれた芋酒を運んできてくれた。

 試飲までさせてくれるらしい。


「えっと、まずこちらがっていうとっても甘いお芋を使った芋酒で、女性でも美味しく飲める甘い味になってます。どうぞ飲んでみてください。」


 その芋酒が入ったコップを手にとって香りを嗅いでみる。


(芳醇な芋の香り……。味はどうだ?)


 クイッと少し口に含んでみると、濃厚な甘い味が口いっぱいに広がる。


(なるほど、確かに女性向けだな。甘くてとても飲みやすい。)


「そちらのお姉さんもいかがですか~?」


「いいんですか?では、いただきます♪」


 イリスは促されるがままに芋酒を飲み始めた。そして飲み干すと、ほぅ…っと息を吐き出し、少し顔が赤らんでいる。


「ふふふ、美味しいですね♪」


(多分このぐらいの試飲なら……酔うことはないよな。)


 以前みんなにお酒を飲ませた時を思い出して、体が震える。


 そして俺とイリスは、店員に勧められた芋酒を一つ一つ吟味していくのだった。

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