神域での修行相手


 イリスの魔法陣から光が溢れてくると、ドーナ達の前にはカオスドラゴンのような魔物が現れ、俺の眼の前にはレスのような魔物が現れた。


「これは……?」


「ヒイラギさんが戦った魔物の魂を具現化してみたんです。感情は危険なので封じていますが、修行の相手にはもってこいだと思いまして。」


「なるほどな、確かにこいつはもってこいだ。」


 レスの隣に悠然と立つカオスドラゴンは、ドーナ達にジロリと視線を向ける。すると、二人はビクッと体を震わせた。


「こ、こいつが……カオスドラゴン。」


「同じドラゴンなのに、威圧感がとんでもないわ。」


「二人とも、ブレスには気をつけるんだぞ?俺はそいつに腕を消し飛ばされてるからな。」


 今だからこそ笑い話として話せるが、初めてこいつと邂逅したときに右腕をサンダーブレスで消し飛ばされてる。


「ふふっ、その点はご安心ください。この世界は現実とはかけ離れた世界です。精神だけがここに連れてこられているようなものですから、現実の肉体が傷つく事はありませんし、死ぬこともありません。」


 さらりとイリスは説明しているが……。


「でも、一応下手したら死ぬような経験は味わうんだな?」


「そうですね、精神体とはいえ痛覚などはそのままですから。」


 …………あの腕を失った痛みは他の人には味わってほしくはない。ドーナ達にはより一層……気をつけてほしい限りだ。


「ですが……この魔物達の肉体の主導権は私にあります。そのような事態には陥らないように、配慮しますからご安心ください。」


「ん、なら安心した。それじゃあ、俺とレスだけ……ドーナ達とは別の場所に飛ばしてくれないか?それと、もちろんレスは最初から全力で構わない。」


「わかりました。それでは……。」


 すると、俺とレスの下に魔法陣が現れる。そして眩い光を放ったかと思えば、次の瞬間には別の場所に飛ばされていた。


「これでいい……。」


 そうポツリとつぶやくと同時にレスの瞳に光が宿り、奴の口から機械的な音声が流れた。


「出力全開……戦闘を開始します。」


「来いっ……。」


 俺が構えを取ると、レスは目の前から瞬間移動で消えた。そして背後から強烈な殺気を孕んだ攻撃が飛んでくる。


。」


「っ!!」


 俺へと向かって突き出されたレスの手から、爆炎が放たれる。

 それをなんとか躱すが、躱した先で既に奴が待ち構えていた。


「…………。」


 次の瞬間、腹部にめり込む異常な威力の蹴り……。


「ぐぶッ!!」


 それによって俺は大きく吹っ飛ばされてしまう。


「がはッ!!や、やっぱり……強いな。」


 本当にあの時勝てたのはまぐれ……。レスが驕り、自分の持つ全てを出さなかったから勝てた。


 だが、今度はまぐれで勝つなんて勝ち方はしない。


「散桜……。」


 立ち上がると同時に体を縛り付けている鎖を外す。同時に、全身の筋肉がブチブチと千切れて悲鳴を上げる。


「今はまだ未完成でもいい…………。」


 散桜は未完成とはいえ、完成形に繋がる奥義だ。きっとコレを使っているうちに……完成した奥義というやつが見えてくるに違いない。


「さぁ、勝負だ。」


 お前を糧に……俺は極致にたどり着く。

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