再び動き出す心臓


 リリン達が城の中へ消えていってからどのぐらいの時間が経っただろうか…。先程までは夕暮れだった空は、今はもう真っ暗になり星空が見えていた。


「っ!!かはっ!!」


 口の中に溜まっていた血を吐き出して、ゆっくりと立ち上がり自分の体を確認した。貫かれた心臓付近は元通りになっている……どうやら成功したようだ。


「危なかった、神華樹の花を口にしてなかったら今頃お陀仏だったな。」


 俺は心臓を貫かれた時、すぐにバッグから神華樹の花を取り出して口に放り込み、何とか一命を取り止めていた。


「それにしても彼女がシアの姉だったとは……驚いた。」


 意識が落ちる刹那、確かに聞こえた。あの黒い獣人族の女性がシアのことを妹だと言っていたことを。


「いったいどうなってるんだ……。」


 本当にシアの姉ならば、今回シアのことを連れ去ったのも納得ができる。


 シアを取り戻すにしろ、何をするにしろ、必ず障害となるのはあのリリンという存在だ。油断も警戒も怠っていなかったあの状況で、突然背後に現れ胸を貫かれた。


「今のままじゃ…勝てる見込みがちょっとないな。」


 もう予備の神華樹の花は無い。今度命に届く一撃をもらったら本当に終わりだ。相手の手の内も割れていないこの状況で今俺ができるのは……。


「食べるしかないなアレを…。」


 そしてバッグからもしもの時のために…と用意していた宝玉を取り出して貪った。一つまた一つと体に取り込んでいくたびに、力が大きく高まっていくのを感じる。


「よし、これで最後だ。」


 最後の一つの宝玉を取り込むと、俺はリリン達が入っていった古城へと目を向けた。先ほどまで夜闇のせいで視界が取れなかったが、数多くの宝玉を取り込んだおかげで夜でもハッキリと辺りの景色が見える。


「ひとまず中に入ってみようか。」


 あの二人が入っていった正門から入るのは危険だ。他にどこか入れる場所はないかな。


 ぐるっと城の周りを一周していると、老朽化が進んだためか崩れている所を見つけることができた。


「ここからなら見付からずに入れそうだな。」


 邪魔な瓦礫をどかし、中に入る。少し進むと上へと続く階段を発見できた。


「人の気配は……上から感じるな。」


 気配を辿って、上へと続く階段を上がる。そして、ひとつ上の階に着くと廊下に設置された松明に火が灯っていて明るくなっていた。


 この階を探索していると、中から話し声が聞こえる部屋があった。気配を殺しながらその部屋の中の声に耳を澄ます。


「フレイ、調子はどう?」


 まず聞こえたのはリリンの声だ。


「今日はそんなに苦しくないから元気だよ、。」


 お姉さま?まさかリリンの妹か?


「ごめんなさい……。私が、私があの時貴女のそばを離れなければ。」


「仕方ないよ。それに多分お姉さまでも死の女神のは防げなかったと思うから。」


「そんなこと……そんなこと…ないわ。今フレイがこんなにつらい思いをしてるのは…私の……。」


「そんなに自分を責めないでよ。それに今日のお姉さまこそ、すごい辛そうな顔してるよ?無理矢理進化したから体にすごい負担がかかってるんでしょ。ボクの心配してくれるのはすっごくうれしいけど、お姉さまも自分の体を心配しなきゃダメだよ?」


「……っ。」


 そこでリリンは何も言わなくなった。


 だが状況は読めたぞ。リリンは死の女神に妹という弱味を握られているらしい。だから仕方なく死の女神に服従している…といった所か。


 もしかすると、少し話し合えば和解できるかもしれないな。彼女が取り合ってくれればの話だが……。


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