トングを求めて


「すまない、魚が欲しいんだが。」


 俺は魚屋の店主に声をかけた。


「へい、らっしゃい!!ってあんた達は……無事だったんだな!!」


「あぁ、下見して帰って来ただけだったからな。それで、今日はいい魚は入ってるか?」


「おうよ!!ちょっと待ってな……よっと!!」


 彼は奥から大きな箱を出してきて、俺の前で蓋を開けた。その中には沢山の見たことがない魚が氷と一緒に入っていた。


「この中にという魚はいるか?」


「トングだな?あ~トングトング…っとこいつだ。」


 そして店主が箱から取り出したのは……。


「これはまたずいぶん面白い魚だな。」


 店主が取り出した魚はカレイのような魚で、トングというその名の通り大きな舌がベロンと口から飛び出ていた。


「見た目はちょいとアレだが、こいつは焼くとウマイんだぜ?」


「あぁ、そのようだな。で、それはいくらだ?」


「こいつは銀貨10枚だ。」


「じゃあそれを……そうだな、あるだけくれ。」


 うちにはめちゃくちゃ食べる人が沢山いるのでな、一匹や二匹ではまず足りないのだ。


「あるだけ!?ちょっと待ってな。1、2、3…………。」


 流石に店主も驚いたようだが、すぐに氷の中からトングを何匹も引っ張り出して数え始めた。


 その様子を眺めていたシアが、トングを指差して言った。


「お兄さん!!あのお魚さん面白い顔してるっ!!」


 ペロッとシアが舌を出してトングの真似をした。可愛らしいモノマネに思わず笑みがこぼれてしまう。


 そして少しすると、店主が箱に大量のトングと氷を詰めて戻ってきた。


「あいよ、全部で12匹いたから銀貨120枚って言いたいところだが……そこのかわいいお嬢ちゃんに沢山食ってもらいたいからな。銀貨100枚でいいぞ!!」


「いいのか?そんなにおまけしてもらって。」


「良いってことさ、お嬢ちゃん沢山食って大きくなれよ?」


 俺から代金を受け取った店主は、シアのことを見つめると威勢よく笑みを浮かべた。


「ふわあぁぁ、おじさんありがと!!」


「どういたしましてってな!!」


 トングの入った箱を受け取り、マジックバッグにしまう。目的の魚を買えたことは大きな収穫だった。


 しかしそれに加えてもう一つ大きな収穫があった。


 俺はシアの方を向いて声を掛ける。


「なっ?ちゃんと話できただろ?」


「あっ!?ホントだ、シア…ちゃんとお話できたっ!!」


 喜んでいるシアの頭を撫でてやった。そして俺はまた店主に向き合うと、あることを問いかける。


「ちなみにここで1番美味しい魚ってなんだ?」


「ここらでか?あ~……やっぱりじゃねぇか?」


 なんだそのとてもキラキラしていそうな魚は……とても興味深い。


「ここでは扱ってないのか?」


「あれはだからな。この市場なら、あそこの店で取り扱ってるぜ?」


 店主は少し先にある店を指差して教えてくれた。


「そうか、ありがとうまた来るよ。」


「おう!!また来てくれよな!!」


 店主にお礼を告げて、そのジュエルサーモンとやらがあるという店へと向かって歩き出す。


「ねぇヒイラギ?ジュエルサーモンってどんな魚かしら?」


「いや、想像がつかないな。ドーナは知ってるか?」


「アタイは名前だけしか聞いたことないねぇ。聞いた話だけど、宮廷とかで使ってる……とか。」


 ほぅ、この国の宮廷でも使われる魚か。ぜひぜひ食べてみたいところだな。

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