魔法の調味料


 どうやらこのソードフィッシュの異常繁殖の原因は、このウォータードラゴンにあるらしい。

 彼女が普段からソードフィッシュを食べてくれているお陰で、食物連鎖が成り立っていたのだが……。ソードフィッシュの味に飽きてしまい食欲が出ていないらしいのだ。


 一度食材そのものの味に飽きてしまうと、それを克服させるのはなかなか難しい。だが、もしかすると……。


「味を変えればまた食べられるかもな。」


 俺はあることを思いつき、ハウスキットを展開した。


「ちょっと待っててくれ。」


 1人厨房へ向かい、大きい鍋を3つ火口に置いた。そしてそれぞれの鍋に醤油を注いでいく。


「三種類味の違う醤油を作ってやれば、まぁ当分飽きることはないだろう。」


 1つの鍋にはレモン、柚子等々柑橘系の果物を一緒に入れて火にかける。


 もう1つの鍋にはニンニクを細切りにして火にかける。

 

 最後の鍋には生姜をすりおろして火にかけた。


「あとは、氷砂糖で味をまろやかにしてっと。」


 氷砂糖で醤油の尖った部分をまろやかにしていく。こうしてやらないと、食べ続けるのが辛くなってしまうのだ。


「あとは、冷ますだけだな。」


 一度沸騰させ氷水に当てて冷ます。ちなみにこういう醤油は日が経つにつれ美味しさが増していく。

 だからこそ飽きにくい。日を追うごとにどんどん美味しくなるのだからな。


 そして、冷ました3種類の醤油を一升瓶に詰めてウォータードラゴンのもとへと向かった。


「ちょっと、ソードフィッシュにこれをかけて食べてみてくれ。」


「これなんですかぁ?」


「魔法の調味料だ。コレをかけて食べれば、また味覚の世界観がきっと変わる。」


 俺の言葉に半信半疑な様子で、首を傾げながらもウォータードラゴンは1匹のソードフィッシュにポン酢風の醤油をかけてかぶりついた。

 すると、大きく目を見開く。


「この魔物、脂っこかったのにさっぱりたべられますよぉ〜!!」


 そしてあっという間に、丸一匹ソードフィッシュを食べ終えてしまう。


「他の2種類も試してみてくれ。」


 用意した残り2つのにんにく風味の醤油と、生姜風味の醤油も彼女の食欲の促進を促すことが確認できた。


 この分なら当分はなんとかなりそうだ。


「まぁ、これで暫く食いつないでくれると助かる。」


「コレがあれば、また数年は食べ続けられると思います〜。」


「多分そのペースだとすぐに無くなるだろうから、また近々補充に来るよ。」


 そう伝えて、一度俺達はシュベールへと戻るべく。踵を返したのだが……不意にランがクルリとウォータードラゴンの方を振り返ると、ニヤニヤと笑いながら言った。


「あなたも早くツガイが見つかるといいわね〜。それじゃあね〜♪」


「う、うるさいですよぉ~!!」


 ランの言葉にぷんすか怒っているウォータードラゴンを背に、ここまで来た道を引き返した。


 しかしまだこの時、俺は知らなかった。


 ウォータードラゴンに渡した、この醤油が原因でとある抗争が起こることを……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る