意外な一面


 だいたい、一時間位歩いただろうか……。この先にもずっと森は続いていて、階段のようなものなんて見えない。

 この広大な森を進んでいる間に何回か虫のような魔物に襲撃されたが、それもドーナとランの敵ではなかった。


「だいぶ歩いたが、なかなか次の階層への階段が見つからないな。」


「お兄さん!!あそこっ!!」


 鬱蒼として変わらない森の景色に少し飽き始めてぼやくと、隣を歩くシアがある太い木の根本を指差した。


「あの木がどうかしたのか?」


「あそこ変!!」


「そうかしら?普通の地面に見えるけど。」


 ランの言う通り一見何の変哲もないように見えるが、シアがその木を思いっきり両手で押すと、バカンッ!!という音と共に木が後ろに倒れ、そこに下へと続く階段が現れた。


「おぉ、シア!!お手柄だぞ。」


 シアの頭をいつもより多めに撫でる。


「えへへぇ~、ありがとう♪」


「よし、それじゃあ次の階層に進もう。」


 シアのお手柄で次への階段を見つけることができたので、さっそく下へと俺たちは歩みを進めるのだった。


 そして階段を下った先はさっきの階とはまた一変し、目の前に綺麗な青い海と白い砂浜が現れた。 


「森の次は海か、いよいよ何でもありだな。」


「ふわあぁ~きれ~!!」


「こう、大きい水溜まりを見ると水浴びしたくなってきちゃうわね。」


「その気持ちはわからなくないよ、海に来たら泳ぎたくなるよ。」


 目の前に広がっている海にみんな目を輝かせていると、そのきれいな海から一匹の魔物が這い上がってきた。


「おっ?なんだあの魔物。」


 その魔物はまるで、伊勢海老をとてつもなく大きくしたような魔物だった。エビみたいな見た目だから味もそれっぽいのかな?

 それに気を取られていると、ドーナがあの魔物の説明をしてくれた。


「あれは、だねぇ。あの殻はとんでもなく硬いらしいけど、中に詰まってる身は美味って話を聞いたことがあるよ。」


「よし、ちょっと行ってくる!!」


 ドーナの口から美味しいという言葉を聞いた途端、いてもたってもいられなくなった俺はそれだけ二人に言い残し、シアを抱えてエルダーシュリンプの元へダッシュした。


「ねぇドーナ、ヒイラギって意外と子供っぽいとこもあるのね。」


「そうだねぇ~。」


「あはは~!!お兄さんはやーい♪」


 お姫様抱っこをされてはしゃいでいるシアを連れて、そのエルダーシュリンプとやらの目の前に立つ。こうして目の前に立ってみると改めて化け物みたいに大きいな。


 エルダーシュリンプの体長は軽く2mを越えている。あの大きいハサミで挟まれたらヤバそうだ。てか、あれか?伊勢海老とかと同じ〆方でいいのかな?とりあえず一回アレを使ってみるか。


「ブリザードブレス。」


 エルダーシュリンプへとむけた右手の掌から冷気のブレスがエルダーシュリンプに向けて放たれた。


 ちなみになぜブリザードブレスを使ったのかというと、活きのいい伊勢海老やロブスターは一度氷水に入れて仮死状態にしてからさばくからだ。その要領でブリザードブレスを使ってみたのだが……。


「おっ?いけたっぽい……か?」


 さすがはカオスドラゴンのブレス技、あっという間にエルダーシュリンプの氷像が出来上がった。


 芯まで凍り付いてるかもしれないが、〆れてるのなら問題はない。カチカチになったそれをバッグにしまうと、ドーナとランの二人がこちらに駆け寄ってきた。


「おーい、ヒイラギ~大丈夫かい?」


「問題ない。」


「ヒイラギにも意外と子供っぽいとこあるのね~?」


「美味いってわかったら抑えが効かなくってな。」


 己の好奇心を抑えることができなかった。これからは少し気を付けるとしよう。好奇心が破滅を呼ぶことだってあるかもしれないからな。


 そう自分に言い聞かせているとシアがキラキラと目を輝かせながら、さっきのエルダーシュリンプについて聞いてきた。


「お兄さん!!さっきのエビさんどうするの?」


「美味しいらしいから、帰ったらみんなで食べような。」


 自分自身アレがどんなに美味しいのか楽しみで仕方がない。早くこのダンジョンをクリアして調理してみたい。


 俺はシアの頭を撫でて、再び浜辺を突き進むのだった。

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