縮まる二人の距離


 目が覚めると目の前にドーナの顔があった。頭の下が温かく柔らかい。俺は今、俗にいう膝枕というものをされていた。


「っ!!すっ、すまない!!」


 慌てて体を起こしたが、ふらふらと足取りがおぼつかず、しりもちをついてしまう。


「いっ、つつ。」


「無理して動かないほうがいいよ?を起こしてるみたいだからねぇ~。」


「魔力切れ?」


「魔力切れってのは、体内の魔力が底をついた状態のことさ。体が魔力の回復に専念するから、一時的に身体能力がガクッと下がるんだ」


 こっちの世界ではそんな概念まであるのか。そりゃあ知らないはずだ、何せ今まで魔力なんかとは無縁の世界で生きてきたからな。

 早いとここっちの世界の知識を蓄えないといけなさそうだ。俺はあまりに無知すぎる。


「んまぁとりあえず今は無理せず休んでなよっ!!」


 立ち上がろうとした俺の肩を強引に掴み、再び彼女は俺の頭を太ももの上に乗せてきた。


「……この体勢はさすがに恥ずかしいんだが。」


「アタイだって恥ずかしいさ……。」


 顔を真っ赤にして、上を見上げている俺から必死に顔を背けながら、か細い声でドーナは言った。


「…………。」


 思わぬ一面に言葉が詰まる。

 

「は、恥ずかしいなら無理にしなくたって……。」


「む、無理にやってるわけじゃないよ。こ、これはあ、アタイがやりたくてやって……ゴニョゴニョ。」


 お互いに恥ずかしがり合っていると、闘技場の入り口でガタリと音が聞こえた。


「っ!!誰だい!!」


 ドーナは視線を音のしたほうへと向ける。するとおずおずといった感じで闘技場の入り口からミースが姿を現した。


「ご、ごめんなさい。も、もしかしてお邪魔しちゃいました?」


「……どこから見てたんだい?」


「え、えっと~……ドーナさんがヒイラギさんを抱きかかえてあわあわしてるとこらへん……。」


「わ~ッ!!いいっ!!もういいわかった!!それ以上言わなくていいっ!!」


 ミースの話をドーナは焦って遮った。


「はぁ、はぁ……で、な、何の用だい?」


「あ、見られてても膝枕は続けるんですね。まぁそれは置いといて……ヒイラギさん、あの~三日月草の採取依頼ってもしかして終わっちゃってます?」


「あぁ、終わってる。」


「でしたら後程受付まで来ていただいてもよろしいですか?」


「わかった。魔力が回復したら行くよ。」


「では受付でお待ちしてますねっ。それではごゆっくり~!!」


 言うことを言い終えたミースは、そそくさと逃げるように走って行ってしまう。それを見てドーナは大きくため息を吐いていた。

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