記憶にある悪夢 その1
大学へ通うのは、あの時からずーっと履いている黒のスニーカーを使っている。かぐや一族の加工がされたこの靴、翁じいが言ってる通り、すっごく早く走れる。加えて純粋な地球人には真似できない、高い身体能力が、知識を受け取った時に完全に開花したらしい。
それで今は、脳の働きが身体に多大な影響を及ぼす事を実感している。
ルナママによるとこの加工がされた靴を履けば普通の『
地球人が使っても時速50キロは出るのらしいで、絶対翁じいは私の知らないところでスピード出しまくっていると思う——「うっひゃー」とかいいながらね。
でも、私だとなんと最高時速マッハ2ですと!
乗り物に頼らなくてもあっという間に学校間を行き来できるんだ。
だって、音速の二倍もの速度が出て走っても全く疲れないんだもの、だけどやっぱり注意して走行? しないとあちこちにぶつかっちゃうと思うでしょ、でもね二十四時間フルタイムでルナママが安全コントロールしてくれているから絶対にぶつかる事はない。
それに加えてあの黒い革パンに革ジャケット、強度が抜群で動き易くて、もう安全面は完璧。
白いティーシャツだって、一瞬で汗を吸い取って、蒸発させちゃう、なんて快適なアイテムたちなのだろう!
だからルナママに言って同じものを20着作ってもらって、洗濯しながら着ている。
その格好で男子学生の前で、ふわりと肩まで伸びてる黒髪を揺らしたら、姿が見えなくなるまで、ずーっと視線を感じる。
頭のいい大学に通学してるくせに、ほんとに男ってバカだ。それよりもっともっと勉強してかぐや一族の技術を追い越せないまでも、追いつくくらいやってみろってこの頃思う。
でも、体は一つしかないから興味のある講義がバッティングした時は、翁じいに行ってもらってる。ルナママに翁じいの持っているマイクが拾った音声と、満月ペンダントを中継してもらって、右耳で実際に受けてる授業を聞いて左耳にペンダントを当てて両方聞いている事もあるんだ。
だいたいが幼稚すぎて途中で飽きちゃうけど………。
翁じいが講義に出ても、常日頃からの『実弾』が効いてるから学校関係者は誰も文句を言わない。
各大学で面白そうな内容の研究をしていると聞いたら、まだ、発表されていないパソコンで書きかけの論文ですら、ルナママの高度なハッキング技術を屈指して読めるんだ。
まあ別に外部に出さないんだからいいでしょ、それにどれもこれも私は知ってる内容ばっかり、真新しいのは一つもないし。
《イガジウム》と《魂のベッド》のヒントとなるような研究は、まだ、どこにも見当たらない。
こんなにも地球の進化は遅いのかと落胆する毎日を過ごす事になったんだけど、実は違う、かぐや一族の進化が早すぎるんだ。
そして、夜、自宅でパソコンを操作しながらペンダントでルナママと通信していた。
「私、考えたんだけど、今表立って研究している論文には私たちの求めているものはないんじゃないかな」
「どういう事でしょう? 」
「地球人の常識からすると、現代では常識外というか、想像もつかないレベルにある事だと思うの、まだまだ、研究も技術も理論も入り口すら見えていない」
「確かにそうです」
「だからね普通じゃない人たち、いわゆるマッドサイエンティストが集まるような深層サイトってないかしら、もしかするとなんかヒントがあるかも知れない」
「分かりました調べてみましょう」
「お願いルナママ」
「ちょとお待ち下さいね」
「うん、待ってる」
というとルナママとの通信が切られた。
私はベッドに行き寝転がって天井を見た。
やっぱり自分で考えるしかないか、一度日本に帰ろうかな。
「はい、月夜姫」
1時間ほどするとペンダントが光ってルナママの声が聞こえてきた。私はベッドでうとうとしてたので、ゆっくり反応した。
「ああ、なにルナママ」
「見つかりましたよ、それらしいのが一つだけ」
「本当! 」
一気に目が覚めた。
「はい、何重にもセキュリティがかけられたサイトですが、全て突破しました」
「流石、ルナママ」
「でも………今お見せするべきか私には判断できません」
ルナママのトーンが下がった。
「どうして? 」
「それは思い出したくない事を思い出してしまうかも知れないからです」
「さっぱり分からない、でもどの道思い出さなくてはいけないことなのでしょう、ママから遺伝された知識に入っているなら」
「私には判断できません」
「見る絶対、私には時間がないのだから」
気を張った。
「そういうと思って、翁じいをお呼びしておきました」
「………」
「ドアの向こうにおりますので、一緒にご覧下さい」
「わかった。翁じいはいってきて」
ドアが開いた。翁じいはジャージの上下を着ている。動きやすそうだ。
後ろには人型家政婦ロボットも立っている。
翁じいは神妙な顔つきだった。
「月夜姫、じいが控えておりますので、気をしっかり持って下さい」
「もう! 翁じいまで、なんなの一体」
ちょっと気が立った。
「………」
「じゃあ見るから、私のパソコンに表示して」
「分かりました、ハンドルネームはシェリーです」
「わかった」
と、起動してあったノートパソコンの表示が変わった
私はパソコンの前に移動して椅子に座った。
バタン。
ドアを閉めて翁じいと家政婦ロボットが入ってきた。私の椅子の後ろで立っている。
私は表示されているサイトを注視した。
そこには『探し物』のスレッドがたくさんあった。
『求む:人体と合成できるクモ』
『求む:スーパーマンの能力を埋め込む実験台になるモニター(単身者に限る)』
『求む:チャウチャウ犬の生首』
『求む:雪男の血液』
『求む:永久氷土の氷』
『求む:南極の土』
『求む:人間の死体10体(女性に限る)』
『求む:腸のサンプル(新鮮なもの)』
『求む:人間の脳全体のサンプル』
………
何に使うか分からないけど、研究に必要なんだろう、流石にマッドサイエンティストが集まる深層サイトだ。不気味な探し物が多い、そしてどれも高額な謝礼を用意している。
という事は裏には強力なパトロンがついているのかも知れない。
ゆっくりスクロールしていくと、おや、これはどういう事だ。
『求む:龍の首の珠とイガジウム』
なんだってー!
驚いた、この組み合わせはまさしく!
私はそのスレッドをクリックした。
と、文字が表示された。
『ようこそシェリー
私は日本の科学者
そして続けて顔写真が表示される。
あらかじめ登録した顔写真を表示するルールらしい。
ちなみにシェリーはブロンドでどこかの女優みたいな顔だ。
サイトに入る時顔認証されるらしいが、それもクリアしてるのはさすがルナママだ。
鬼塚原左門二は真っ白なボサボサ頭に口髭、不気味な笑顔をした50代くらいの男だ。
私は顔写真の下にあるプロフィールを読んだ。
『当方人体を再生する研究をしております』
私はまたも驚いた。
「これってどういうこと」
声を上げて叫んだ。そしてもう一度顔写真を見た。
おや、見た事ある、いや、遺伝された知識の中に入ってるぞ。ママの記憶だ。
あああ、脳内で何やら嫌な感触が襲ってきた。
しっかりしなきゃ、しっかりしなきゃ、そう思ってもダメだ、私は嫌な記憶に脳を占拠されつつあった。
駄目だ目の前が真っ暗になっていく。
「月夜姫、月夜姫! 」
遠くで翁じいの声が響いていたけど、意識は悪夢に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます