金剛石男と月夜姫 〜えーっ!マジで私が姫さまなの!!!〜
赤木爽人(あかぎさわと)
プロローグ
「突然の別れ」その1
私の名前は
今は『
小さい頃はいつも一緒で、部屋も同じ部屋だったのに小学校四年生になったころ、園長先生が——園長先生ってねママの事だよ、ここにいる全員のお母さん——男の子と女の子を部屋分けしちゃった。そして中学生になるとお互い一人部屋になったからこうして鉄ちゃんの部屋に遊びに来てるってわけ。
私が持っているトランプはジョーカーとハートのエースのニ枚、鉄ちゃんは一枚しか持っていない。そう最後のスペードのエースだ。だって他のカードは全部真ん中に山積みになって捨てられているから、それしかないでしょう、どう考えたって、これでもしもだよ、もしも鉄ちゃんが持っているカードがスペードのKだったとしたら大問題だよね、どちらかがイカサマしたか、カードがおかしな事になってるか………
おっと鉄ちゃんの手が伸びてきた伸びてきた、ああーやばいハートのエースを狙ってる。そっちじゃダメ、ジョーカー取れーーーーー。
ひっひっひっ、やっぱりー、私が願うと指が自然とジョーカーにいくんだ。
赤ちゃんの頃からの付き合いだから、ぜーんぶお見通し、ババ抜きで一回も、一回もだよ鉄ちゃんに負けたことがない。
鉄ちゃんとは愛敬園で
園に預けられたのも、まあ、一歳児の記憶なんてあってないようなものだから自分じゃ覚えていないけどほぼ同じだったらしい。
「やったー」
私は思わず叫んだ。
「なんで俺、別なカード取ってるの、そっち取ろうと思ったのに」
「ふふん、いつも最後の最後で駄目な男ね、将来出世しないぞ」
「月夜ちゃんまたやっただろ、超能力使ったな」
「へ、なにそれ、私そんな力持ってない」
「俺が知らないとでも思うのか、月夜ちゃんのことならぜーんぶ分かる」
「何それ………」
私は意外だった、どうも鉄ちゃんは私が気付かない私を知っているみたいだ。
「よし、今日こそははっきりさせよう、前々から気になってしょうがなかったんだ。いいかい月夜ちゃん」
「う、うん」
私は鉄ちゃんが一体何を言っているのか見当もつかなかった、本当になんだかわからなかった。
「僕がカードを持つからゆっくり手を伸ばしてきてね」
「う、うん」
「僕が持ってるカードはジョーカーと…」
「スペードのエース」
「そうだよね、月夜ちゃんはどっちが取りたい」
「もちろんスペードのエースだわ」
「どうして? 」
「あたりまえじゃんか、それで上がりだもん」
「そうだよね」
「うん、うん、うん」
「月夜ちゃんは右と左どっちがジョーカーかわかる」
「カードをうしろからみてんだぞ、分かる訳ないだろ、分かったらイカサマだ、私はそんな卑怯なやつじゃないぞ」
私はむくれた。
「ごめんごめん、そういう訳じゃないんだ」———むくれたのはふりだけだよ、鉄ちゃん。本気じゃないよ。
「で、どうすんだ! 」
私はわざと声を荒げた。
「うん、いつも通りカードを取りにきて、スペードのエースを心に思って……… 」
「ふん、言われなくてもそうしますぅ」
私はどちらか分からないカードに手を伸ばした、鉄ちゃんがもつ二枚のカードのうち一枚を取ろうとした時。
左のカードが少し揺れた、その揺れに誘われるように左のカードを取った。
「えい! 」
「やっぱりスペードのエースを取ったね」
鉄ちゃんが真剣な顔で私を見た、こんな真剣な鉄ちゃんは見たことがない。
私は取ったカードを裏返すとスペードのエースだった。
「どうしてそっちを取ったの? 」
「えっと、だっていつものように鉄ちゃんがカードを揺らしたから、何の疑いもなくいつものようにそっちを取った」
「やっぱり」
「鉄ちゃんて、本当に優しいんだから、いつも私に勝たせてくれる」
「良く聞いて月夜ちゃん」
「なに」
「いいかい」
「だから、なによ! 」
「本当にいうよ」
「もったいぶんな! 」
私は切れかかった。
「これまで何千回と月夜ちゃんとババ抜きしたけど、一回も勝てなかったのはね」
「………」
「二枚残ったカードをとろうとすると、さっきみたいに取りたかったカードじゃないカードを取ってしまう、それは絶対ジョーカーなんだ、それと…」
「それと…」
「よく聞いてよ月夜ちゃん」
「う、うん」
「僕は今まで生きてきて、カードを揺らしたことなど一度もない」
「えーーーーー嘘だぁ! 」
「嘘じゃない、僕が見ている限りさっきだってカードは揺れてない」
「じゃあ、さっきのはなんだってんの! 」
「月夜ちゃんが思っている事にカードが反応した、つまり、月夜ちゃんは人間の能力を超えた何かしらの力を持っているに違いない」
「(絶句)」
「その証拠に、通信簿、小学校一年生から◎か5以外とったことないでしょう」
「だって簡単すぎて、テスト問題見ただけでぜーんぶわかっちゃうもの」
「勉強しなくてもいつも百点、でしょ」
「確かに教科書なんてまともに読んでないのに、なんでかなぁ………」
「幼稚園の年少組でみんなで木登りして、枝が根元から折れて落っこちた時、一緒に落ちた僕とひーくん、まきちゃんは地面に転がって擦り傷つくったのに、月夜ちゃんはどうだった………」
「うーん覚えていない」——本当に忘れていた。
「僕はしっかり覚えている、空中で二回転して見事足から着地した」
「そ、そうだったっけ………」
「そんな事できる年少さん、全国的に見ても他にいないよ」
「………」
「ほらね、まだまだ一杯あるよ月夜ちゃんの超能力」
「いっぱい…? 」
「うん、忘れちゃ困るからいつか必要になると思ってノートにいっぱいメモしてる、大学ノート5冊にびっしり書いてあるよ」
「えーっ大学ノート5冊にびっしりですか………」
「うん、いいかよく聞けよ月夜ちゃん」
「う、うん」
私は鉄ちゃんに圧倒された。
「君は特殊な能力を持つ選ばれた人間だ! 」
私は何がなんだかわからなかった、私が選ばれた人間?
誰に選ばれたの?
どうしてそんな事できるの、確かに冷静に考えてみると普通じゃ無いことをいっぱいやってる。
えーっ、えーっ………と、私って何者?
きゃーーーーーーなんなのなんなの、さっぱり分からないよ。
でも、でも、でも………ただ一つ分かったことがある。
鉄ちゃんは私以上に私の事を気にかけ、観察、いや、私を理解してくれていることだ、ずーっと傍にいてくれていることだ。
そう思った瞬間、私の瞳から涙が、ぽろぽろぽろぽろ………ながれ落ちた。
「わ、わ、ごめん、月夜ちゃん、ごめんごめんごめん」
「なんで謝るの? 」
「ハンカチハンカチ、どこだっけ」
「左のズボンのぽっけに入ってる」
「そうっか、って、なんでわかるの? 」
「知るもんか、えーんえーんえーん」
私はとうとう、声をあげて泣き出した。
「は、はい、月夜ちゃんハンカチ」
鉄ちゃんはズボンのポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出すと私にくれた。
「あんがと」
くしゃくしゃのハンカチで涙をぬぐうと、チーン、ついでに鼻もかんでやった。
と、そのときだった園長先生が血相変えて部屋のドアを開けた。
「やっぱりここだった、月夜ちゃんお客様よ」
「お客様? 私に………」
「そうよ、ママと一緒に来てちょうだい」
園長先生はまだ涙の乾かない私を立ち上がらすと、拉致するがのごとく引きずっていった。凄い力だった。
どたどた………ふーせんママと陰のニックネームを持つ園長先生は、そのとおりぽっちゃりをとうに超えたぼってりなおばちゃんだ。
腕を握る握力がこれまた強いし、廊下を戦車のごとく重厚な足取りで、かつ一歩一歩を踏みしめながら連れていくんだから、私なんて逃げられっこない………て、あれ、私歩いてる? 足動かしてないんだけど、あれ、でも引っ張られているよ、あららららら、私のつま先宙に浮いてる。どうして? 私がやってるの? これも超能力ってやつなの? 鉄ちゃん教えて、なんで浮いてるの? それも地面すれすれを………ちょっときしょくない?
と、ふーせんママは勢いよく食堂のドアを開けた。
「おまたせしました、この子が鈴木月夜さんです」
鼓膜が破れるかと思った、でっかくて、あたり一面響きわたったんだから。
「月夜ちゃん挨拶なさい」
これまたでっかい声でびびった。
私は浮いていた両足を廊下につけると、直立不動になってしまった。
「はい! 鈴木月夜ですこんにちは! 」
大きな声であいさつした。と誰かが私を見つめている、白髪でずいぶん小柄なおじいさんだ。高そうなスリーピースのスーツをびしっと着こなし、赤い蝶ネクタイだ。
おじいさんはパイプ椅子から立ちあがって駆け寄ってくると、丸眼鏡の奥に光る鋭い視線をやわらげ、破顔した。
「ひめーーー」
大声でそういった。
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