惑星のない惑星環

晴れ時々雨

🌙.*·̩͙

彼の社会的なパーソナリティを知っているということは、この関係上においてとても重要なスパイスになる。見ず知らずを相手にするのも刺激的な一面はあるが、それはあくまでシチュエーションまでのこと。そんな状況に身を置く自分に酔っているだけで、いざ肌を合わせる段階になると、単なる性欲のぶつけ合いでしかないということがはっきりとわかる。知らない男とセックスをする。相性が合えばそれなりに楽しいけど確率が低すぎる。トータル、あまりおもしろいこととは言えない。


関係の構築を求めているわけじゃない。体を交わす人とは肉体と精神を切り離して考えたい。その上でその人の普段を知ることは、裸になったときに大きな効果をもたらす。

仕事先でたまに顔を合わせる業者の男。行きつけの店で知り合った男。そういう何人かの男と関係を持つ。

相手に恋人がいようが、既婚者であろうが、そっちがその気になってくれればいつでも応えた。時と場所は選ぶが。たまに勘違いする人がいるけど、私はどこででもそういうことがしたいんじゃない。切り替えるスイッチを持つ男というのが最低で最高の条件だった。


その人特有の匂いを肌から感じると、異世界の空気を吸ったように新鮮な気持ちになる。なまじ現実を知っているせいで、その衝撃はいつも私を驚かせる。

昼間爽やかな笑顔を見せる人が、カーテンの奥で私を物のように扱う。子供の画像を見せたあと、私の全てを裏返す。つっけんどんな態度で周囲からあらぬ誤解を受けているある男は、女を抱くのがとても上手かった。

一番だらしなく身を預けてしまった男は、普段お喋りが好きで会話を途切れさせない人なのにベッドでは一言も洩らさず、この点が私の妄想を最大に捗らせ、これまで自分の取ってきた行動が有意義であったことの証明をしたみたいで良かった。

彼は私の口に指を入れるのが好きだった。長い指二本で上顎を擦りながら下から突かれると色んなところから粘液が溢れて、動物のような声を出した。抜いた指に唾液が糸を引き、それをねぶると私の口の端から垂れた涎を舌でべろりと舐め上げる。初めはそれを飲み込み、二度目は私に口移しする。男の唾液と入り混じった生ぬるい粘液が甘く鼻腔を抜ける。次々と送り込まれる男の唾に、私を溺れさせようとする意思を感じた。

彼との情事は時間を要するので、お開きは朝になることが多かった。彼は卒のない身のこなしで支度をし、朝の挨拶と別れの言葉を同時に残して先に部屋を出ていく。私も少し遅れてホテルを出る。このままロビーで鉢合っても映画の話題で盛り上がれそうだった。


非生産的と言われても仕方ない。私は男に心を愛されたいと思ったことがないし、一人の男の総てを欲したこともない。

男を見下したいのかもしれない。

あとは体の穴を塞ぐものさえあれば。

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惑星のない惑星環 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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