第2章 日常
日常 1
〇海の森コーストガード・アカデミー:昼
暗転から明るい照明に変わったあと、2段目にももえ教官とアケミ教官が、1段目にミサキ、アコヤちゃん、コウタ、マドノちゃんが並ぶ。
「おはようございます。 今日は、これまでに習ったことの復習をしたいと思います」
「君たち初等部の5年生は、もうすぐ実戦を経験することになるからな」
ももえ教官とアケミ教官の話を聞いて、ミサキ以外のみんながざわつく。
「実戦といっても、安全を確保したエリアで、隊員の戦いを見学するだけよ」
「だが、撃ち漏らしが襲ってくる場合もある。 そういったトラブルに備えて、改めて学んだことを振り返るんだ」
2段目の中心に居たももえ教官とアケミ教官が、上手と下手にわかれて立つ。
そして背景には「ラーンとベゼルについて」という文字が映った。
「私たちコーストガードが戦っている敵『ラーン』は、半世紀前に深海から現れた未知の生命体です」
「わかっているのは、地球外生命体ではないこと、9種類の個体が存在すること、単体でも戦車より強いタイプが存在することだ」
「ラーンにはふつうの兵器も通用します。 ですが、ラーンは数が多く、特殊な機能も無い兵器だけで戦うのは難しかったんです」
ももえ教官とアケミ教官の話が続き、背景には9種類のラーンの画像と名前が表示される。
「そこで開発されたのが、コーストガードの隊員が扱う武器、ベゼルだ」
「ベゼルは、倒したラーンのコアを再利用して開発した特殊な武器なんです」
「今のベゼルは、変形することで、ダイレクトアタックモードとシューティングモードを切り替える機能を持つ。 その機能を活かすことで、どんな場面でも柔軟に戦えるようになったんだ」
背景の画像が変わり、ベゼルの画像になった。
その画像には、リーダー、ミナト、ミサキのベゼルが使われている。
「ミサキくん以外に支給されているベゼルは、日本で広く使われているアカギ・シリーズと、ミハシ・シリーズになります」
「どちらも扱いやすいが、性能は低くない。 訓練生はこの機体でベゼルの扱い方や戦い方を学び、ステップアップしていく」
ミサキ以外のみんなが、持っていたベゼルを見る。
「アカギ・シリーズはライフルにブレードを付けたような、銃剣型をしています。 コウタくんの機体は、ミハシ・シリーズ最初のモデルで、ハンマー型にカスタマイズされた専用機なんですよ」
ももえ教官がコウタを示し、コウタがベゼルをみんなに見せる。
「先生。 なんでミサキのベゼルは違うんですか?」
手を挙げながら、アコヤちゃんが質問する。
「ミサキくんの機体は、初代ビザン・シリーズ最後の機体で、シラミネと言います」
「ビザン・シリーズは旧型の機体だが、ミサキくんが倉庫に放置されていたシラミネが欲しいと言ってきてね。 使い手もいなかったから、特別に許可したんだ」
「でも、旧型に変形機能は無くて、シューティングかダイレクトアタックのどちらかでモードは固定されてるはず……」
マドノちゃんがつぶやき、みんながミサキのシラミネを見る。
ミサキ用にカスタムされたシラミネは、鋭いブレードの中心に銃身パーツが付いた大きな杖の形をしていた。
「ミサキくんが、メカニック科に通う生徒に頼んでカスタマイズしてもらったの。 2回目のカスタムがされたあのシラミネは、攻撃にも積極的に参加できるようになったのよ」
「最初のは杖だったのに、2回目のカスタマイズではオノに変えたんだな」
アケミ教官の何気ない言葉に反応したミサキは、少しだけ戸惑う様子を見せた。
「これ、杖です」
「え? オノじゃないの?」
「どう見てもオノだろう」
「杖ですってば」
千秋楽公演で追加された、シラミネのデザインをネタにしたアドリブ。
観客席からも笑い声が上がる。
「守る力だけじゃ足りなかったから、自分も戦えるようにしようと思ったんです」
ミサキは咳払いをして、演技を続けた。
「最初のシラミネは、バリアの性能を重視して、攻撃力は低かったものね」
「キミが担当するポジションでは、そばの仲間を守るだけじゃなく、危険な敵をすぐに倒す必要もあるからな」
ミサキ、ももえ教官、アケミ教官。
それぞれが語ったあと、「わたしは大丈――」という、あの時のミナトさんの声が流れた。
最年少でコーストガードに参加したミナトさんを知るふたりの教官と、あの時ミナトさんのそばで戦って、ミナトさんを守れなかったミサキ。
3人の事情を知っているみんなも、黙ってしまう。
「いけないな。 ミナトの話になると湿っぽくなってしまう」
「仕方ないわ。 それだけ、ミナトさんは慕われてたってことだもの」
ももえ教官とアケミ教官は、話しながら段差を降りて1段目に移動。
「みんな、ミナトさんがいつ戻って来てもいいように、しっかり訓練して、強くなりましょう!」
「はい!」
ミサキたちが返事をしたあと、ステージ1段目を照らすライトが暗くなって、ミサキたちは舞台そでに引っ込んでいった。
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