光剣の勇者と神導の魔術師 6
ギィーンと金属を削るような音が響き漆黒の槍と光の剣がぶつかるたびに目も眩むような光と火花が飛び散る。槍から発せられる凄まじい熱気に肌を焼かれるような感覚に耐えながら誠は元はカマキリだった人型の攻撃をいなし続けていた。
槍と剣の戦いではリーチのある槍の方が有利とされるが、それに加えての体格差がある。向こうは三メートル近い巨体から振り下ろされる勢いのある攻撃は誠の腕に大きな衝撃を与えていく。
相手の攻撃を体を横に回転させながらかわし、リーチの不利を補うために刀身を伸ばしたヴィエルヴィントを縦に振るう。
しかし、その一撃は右腕の、今だカマキリの姿を模していた時の名残である大鎌に防がれる。
さっきまで喰らうモノを易々と切り裂いてきたヴィエルヴィントの刃が通らない事に誠が驚愕する。その一瞬を突いて人型の左腕の槍が伸びた刀身を打ち払う。
「さっきまでとまるで別物じゃないか!」
力もスピードも硬度も全てが違う。漫然と放出されていた力を一身に凝縮した喰らうモノの強さと迫力に誠は完全に気圧されていた。
先ほどと違う本当の命を懸けた戦いにただの一般人である誠の意志が挫けそうになるのは仕方のないことだろう。
しかし、残念ながら彼の戦いを見守る神の残滓はそれほど甘くはないようだ。
「ああ、もう!そんな音をキンキン立てなくてもちゃんと戦うっての!」
視界の端で亜由美もたった一人で不気味な獣頭を相手に戦っている。メイリルがこちらに走ってくるのも見えた。
「女の子が頑張っているのに男が逃げられる訳ないだろっ!」
大層な理想よりちっぽけな意地や見栄の方が力になることもある。
今の誠がまさにそれである。
それに、亜由美がメイリルをこちらに寄こしたのは当初の作戦通りに行動しろということだろう。
それにまだ負けた訳ではない。
理屈はさっぱりだが体が自然に動く。相手の攻撃はまだ見えている。勝機はまだあるはず!
「田村さんが見た核は四つ。二つは壊したけど後の二つは……?」
突き出された槍をヴィエルヴィントで地面に押さえつける。ここから反撃につなげようとした誠に熱波が襲い掛かる。
その熱の正体は胸に開いた穴、そこから放出される炎の熱気。
マズイと横に飛んだ誠を追うように全てを焼き尽くす炎が既に生命の息吹を失っている大地に追い打ちをかけるように焼き尽くし小さなマグマ溜まりを作り出していく。
「やたら炎に特化しているのはディーオルフトの力か!」
走り回りながら誠はメイリルからの情報を頭の中で反芻する。
―――
「滅火槍・ディーオルフト。その特徴は自ら炎を生み出し続け、そしてそれを自在に扱う事が出来る能力……らしいです。能力について伝えられている事が少ないのはこれを継承した人は一回使っただけでしんでしまうからです」
「えっと神様がなんやかんやした武器なんでしょ?それじゃただの呪いの武器じゃない!」
思わずツッコミを入れる亜由美にメイリルはもっともだというように頷いて説明を続ける。
「元々神装武具は神が自分で使う事を前提にしていた武器ですから普通の人間じゃ扱えない事の方が多いんです。神に選ばれたなんてチヤホヤされても、いざという時には命を捨てる事を強いられる。それが継承者と呼ばれる者の運命なんです」
自分の境遇をかつてディーオルフトに『選ばれ』散っていった者たちに重ねてメイリルが自嘲気味に笑う。だが自分を気遣う誠の視線に気づくと余計な事を言ってしまった事に気づきコホンと咳ばらいをして話を戻した。
「継承者が短命なのはディーオルフトは人の魔力や生命力を糧に炎を生み出しているからと言われています。実際、命を全て捧げて作られた炎は一つの国を焼き尽くしたとも言われています」
「えげつない使い方だな。だけど、それなら無駄撃ちさせれば自滅するんじゃ?」
自分なりの対抗策を誠が披露するも亜由美は首を横に振る。
「多分、もうディーオルフトの能力を解析して最小のエネルギーで最大の効果を得る方法を編み出しているからエネルギー切れを待つのは得策じゃないよ。その神性武具には弱点ってないの?」
「二つあります。一つは私の持っているアリエント。これには神性武具に干渉する力がありますから、これを使えば弱体化させられると思います。ただその為にはかなり接近しないといけませんが」
「それで、もう一つは?」
誠の問いにメイリルが腕を持ち上げてある一点を指さす。そこにあるのは誠が持つヴィエルヴィントだった。
「退魔の剣、ううん、滅魔剣ヴィエルヴィント。魔法さえも打ち消せるというその剣ならディーオルフトの炎も消せるかもしれない」
―――
「炎を、消すっ!」
気合と共に振るった刃が飛んできた火球を真っ二つに切るが、それはただ切っただけだった。
背後で二つに分かれた火球の爆発を背に受けて転がる誠に飛び込んできた人型が槍を突き下ろす。
「このっ!」
命を奪わんとする槍を蹴っ飛ばして反動でなんとか誠が立ちあがる。蹴った足の裏が焼けただれ痛むが、それを無視して今だ前屈みになっている人型に一太刀浴びせんとする。
だが、人型の目だけついている顔が誠と視線を合わせる。
マズイと誠が思った時には遅かった。
人型の紅い目が輝き、深紅のビームが誠に放たれ大地を揺るがすほどの爆発を巻き起こした。
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