光剣の勇者と神導の魔術師  4

 「やったぁ!」


 「うそ、あれが本当にマコトなの?」


 ほんの少し前まで戦う力を持たなかったはずの少年が自分が手も足も出なかった相手を圧倒した光景にメイリルはただ呆然とするしかなかった。

 誠が飛び出した後に二人は家の壁に立って離れた位置で戦いを見守っていた。正確には亜由美は魔眼で度々喰らうモノに攻撃や動きを阻害するなど誠を援護していた。併せて、周囲を警戒しメイリルの護衛も抜かりなく務めている。


 「あの、アユミさん!一体誠に何があったんですか?」


 「ちょっ、落ち着いて!別に危険な事をしたりはしていないから!」


 「なら……!」


 「答えは、これよ」


 そういって亜由美が見せたのは胸から取り出したペンダントだった。

 ただし、その石は見る角度によって色が変わり、それは今の亜由美の髪と似ていた。


 「誠くんも同じのを……って待って、ダメ!」


 亜由美の制止も間に合わずメイリルは石の持つ力を調べようと本能的に魔力サーチをしてしまう。


 「?!!!!????!!!?」


 「ごめんね!」


 渇いた音と頬の痛みでメイリルの意識はなんとか現実に帰還したが、眩暈や頭痛が酷く座り込んでしまう。だが、その程度で済んで幸運だった。もう少し遅かったらあの力の奔流に自分は壊されていたかもしれない。


 「な、なんなんですか、その石は?あんな凄まじい力、普通じゃないです!一体どうやって……」


 「それは私たち地球人が『空っぽ』だから、なんの異能ももっていないから、らしいよ」


 『通常のニンゲン』は何かしら魔力、超能力と言った異能を持ち、それを扱う能力を持っている。

 しかし、地球人にはそれがほとんどない。だが、だからこそ地球人には『力』を注ぎ込む余地があった。しかも、その余地は恐ろしく大きい。


 「元々これは誰にも扱えない力を持つ忌むべき石、『忌石きせき』って呼ばれていたんだって。だけどそれを扱えるニンゲンに出会って名前が変わった。未来を照らす輝く石、『輝石』ってね」


 「輝石……」


 「輝石を手にした地球人には色々な力が備わるの。身体能力向上に特殊能力付与とかね」


 輝石を手にした者が得る能力はおおまかに四つに分かれる。


 一つは『武具具現化能力』。文字通り武器や防具を生み出し圧倒的な攻撃力や防御力を得る事が出来る能力である。剣や槍、盾や鎧を作り出し攻防どちらかに特化した能力を持っている。


 ちなみに亜由美は無くなった右目を武器として作り出しているというかなり変わった能力の発現をしている。


 二つ目は『変身能力』。自身の姿を変えて戦う能力である。変身ヒーローや魔法少女、獣人変化などを思う浮かべれば大体間違いない。変身形態にもよるが大体においてバランスの良い能力を持っていることが多い。


 三つめは『分身作成能力』。自分に代わって戦ってくれる存在を生み出す能力である。自分そっくりの文字通り分身といえる物からロボット、神話の英雄、怪物と多種多様である。


 特徴としては自分が戦う必要がないので能力者にダメージなどの負担がかからないことが上げられる。ただし分身の回復能力はかなり低く、もし全壊してしまうと数か月は戦えなくなるという弱点がある。


 四つ目は、それ以外の特殊な発現をしたものが当てられる。


 この四つの能力に加えて様々な技能スキル、そしてそれらを扱う知識も同時に輝石から与えられ、亜由美たちは『勇者』として日々喰らうモノと死闘を繰り広げているのだ。


 「まぁ、輝石に関してはこの程度かな。詳しい事は本部に帰れば担当の人がしてくれるから。でも、そうか、誠くんは光線剣を作ったのね。ああいう武器もかっこいいよね、うん」


 体中から黒い粒子を撒き散らして暴れる喰らうモノの足を切り飛ばした誠の剣を見て亜由美がうんうんと頷く。

 喰らうモノとの戦いは誠が優勢だった。銃に変化させた右腕はその力を維持できず崩壊し、体もその巨大さを維持できず黒い粒子が飛び散るごとに体が縮んでいく。それに伴い明らかに動きも緩慢になってきている。

 しかし、メイリルはその光景よりも亜由美の言葉に違和感を覚えて考え込んでいた。なぜならあのヴィエルヴィントは間違いなくメイリルが渡した物だからだ。


 「あのマコトの使っている剣は作った物じゃ……」


 だが、メイリルが亜由美の言葉を訂正する前に閉ざされた世界に異変が起こる。

 地面が激しく揺れ、空に鎮座する禍々しい紅い太陽が明滅を激しく明滅を繰り返す。

 まるで世界の終わりが始まったかのような光景にメイリルと対照的に亜由美の行動は早かった。


 「全員に緊急連絡!暴食の宴、発生!繰り返す、暴食の宴が発生!」


 「ぼ、暴食の宴って何ですか!?」


 「簡単に言えば喰らうモノの最後の悪あがき、かな?誠くん、一回そいつから離れて!」


 耳に付けた通信機から聞こえた指示に従って誠は後ろに大きく飛んで距離をとる。


 「田村さん、今何が起こってるの!?」


 「悪あがきというか本気を出してきたというか……。始まった!」


 「~~~~~~~~~~~~!!!」


 ゆらりと体を起こした喰らうモノが音波の様な声で絶叫した!

 その声を合図に巣の中で様々な異変が起き始める。


 誠が最初にいた森の木々が枯れ、点在していた廃墟も粉々に砕けて散っていく。

 砂漠をうろついていた人形型の喰らうモノたちが一斉に内部から破裂し周囲に黒い粒子を撒き散らした。

 それまであった物が砕け、周囲に漂う黒い粒子がまるで意思を持つかのように天上の紅い太陽に吸い込まれていく。

 そして、紅い太陽も黒い粒子に分解され、その全てが誠の前にいる喰らうモノに吸収されていく。


―――

 同じころ、離れた場所で戦っていた者たちの前にも様々な敵が立ち塞がる。


 空を舞うマシロに向けて地中から出てきた戦艦が砲弾を放ちながら浮上を開始し。


 上半身は巨大な戦斧を構えたミノタウロス、下半身には無限軌道を備えた牛頭戦車に力也は狙いを定め。


 巨大な三つ首の黄金龍を前に陽太郎は剣を肩に当て不敵に笑う。


―――

 「空が暗くなった……」


 光源を失ったがそれでもまだ明るさを残している空を見てメイリルが呟く。


 「まぁ、あれは別に太陽じゃなくて巣を維持するためのエネルギー源ってだけだから。無くなっても視界が悪くなることはほとんどないから。それより家が消えるから飛び降りるよ」


 まだ座り込んでいたメイリルを抱えて亜由美が誠の家から飛び降りると、ほどなくして横倒しになっていた家が初めから何もなかったかのように消え去ってしまった。


 「これであいつがここら辺で喰っていたモノは元に戻ったはず。後はアイツを倒せば全て終わりってね」


 暴食の宴。


 それは自らの生存を諦め敵対者を確実に殺すための種を守る最終防衛システムである。

 巣を形作っていた余分なエネルギーを全て排し力をまとめ選ばれた数体の喰らうモノを強化する。誠の家が消えたのも保存と消化という余計なエネルギーを減らすためである。

 そして、更にもう一つ、敵を確実に殺すための仕掛けも発動する。


 「……空が割れていく?」


 「空間が収縮しているの。この巣を潰して私たちを道連れにするためにね。でも、それは裏を返せばもう喰らうモノには後がないってことでもあるけど」


 喰らうモノがまるで古い体を燃やし尽くそうとするように紅蓮の炎に包まれる。

 だが、それをじっくり見守る義理は誠にも亜由美にもない。

 誠がヴィエルヴィントを突き出し、亜由美が両目の魔眼で氷漬けにしようと試みるが二つの力は容易く跳ね除けられてしまった。


 「くっ、誠くん、注意して!」


 「わかっ……」


 炎の中から現れた槍の一突きを紙一重で避けた誠だが、弾みで通信機が外れてしまった。

 だが、それを気にしている暇はない。

 炎の中から現れた身長三メートルはある鎧に身を包んだ偉丈夫が右腕と一体化した槍を続けざまに繰り出してくるのをなんとか捌きつつ後退する。


 「こいつは……」


 その喰らうモノの姿に誠は既視感を覚えていた。

 その姿はどこかヴィエルを彷彿とさせるものがあったからだ。

 だが顔に当たる部分を見て、誠はそれが喰らうモノであると改めて認識する。

 なぜならその顔には二つの紅い目が輝くのみで鼻や口がない、まるで仮面のような形をとっていた。

 そして、胸には中に炎をくゆらせる核が埋め込まれて鈍い光と黒い粒子を噴き出し続けていた。

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