第六章
光剣の勇者と神導の魔術師 1
「はぁ、はぁ、これはいよいよマズイ、かな」
炎の柱に囲まれた闘技場でメイリルは力なく笑う。
長く美しいピンクブロンドの髪は先が焦げ、顔は泥と血で汚れ、服もあちこちが切り裂かれその下の肌にはいくつも血に濡れた傷がついていた。様々な術を施してあったローブは既にただの布切れに成り果てていた。
「最初の一撃を避けられたのは奇跡だったけど、ここらが限界、かな?」
避けられたといっても大きな傷を負ったのは胸のすぐ下の横真一文字に裂かれた服と出血跡を見ればわかる。魔術で傷は塞いだが失った血を補うことは出来ずメイリルの顔色は非常に悪い。
そして、なにより最悪なのは確実にアリエントを介した魔術の効きが悪くなっている。いや、素直に現実を見れば吸収されているのではないかとメイリルは見ている。
「攻めあぐねているんじゃなくて、わざと私に魔術を使わせている……。で、もう用済みと判断したらパクっと食べて終わらせるつもりなんだろうな」
実際カマキリは最初の一撃以降はメイリルとつかず離れずの距離をとっている。
(攻撃をしても相手の力を増すだけ。そして逃げる事も出来ない、か。なら出来る事はもう一つだけだね。こいつを倒せばこの空間は崩壊する。そうすればマコトも助けられる!)
ここには居ない知り合ったばかりのちょっと気弱な相棒の顔を思い出してメイリルは口元を緩める。
魔術と魔法を酷使しすぎて気を抜けばすぐにもその場に崩れ落ちそうになるのを最後まで残っていた搾りかすのような気力で支える。
「結局私は何も出来なかったな……。託された使命も、故郷に帰る事もできなくて、挙句に関係のない人巻き込んでね」
自分の不甲斐なさを故郷の親や先生、そしてここにいない相棒に詫びながら、メイリルはまっすぐに前を見据えて両足で大地に立つ。
「でもね、私にも意地があるの。お前を生み出してしまった世界の人間としてこのまま野放しにしておくわけにはいかない!」
このまま戦っても相手の成長を助けるだけ、そしてもしアリエントを喰われてしまえばチキュウに住む人々の大きな脅威となるのは目に見えている。
そうなるのを避けるには、もはや打てる手は一つしかなかった。
それはアリエントを手にした時に最初に使った魔法、周囲の物を全て次元の狭間に送り込む「次元魔法」を使う事だ。
(今の私じゃ向こうの力にもスピードにも対抗できない。なら範囲を最大まで大きく広げて……!)
メイリルの意思に応えてアリエントの先端にはめられた宝石が輝きだす。
放出される魔力を紡ぎメイリルが最後の力ある言葉を放とうとしたその時だった。
「メイリルッ!!」
邪魔な火柱を真っ二つに切り裂いて現れた誠が右手を伸ばす。
その手に握られた神の武器から銃弾のように放たれた光刃がカマキリの右目に突き刺さり爆発した。
「おまけだ、こいつももってけ~!!」
亜由美の投げた銀色のカプセルがカマキリの頭上で爆発しキラキラと光る粉が降りかかると甲高い声をあげながらカマキリが悶え苦しみだした。
「誠くん、今のうちに!」
「わかった!」
「ウンディーネ零、起動!シールドランチャー装備!」
亜由美の音声を認識したヤオヨロズが次元倉庫にあった装備を亜由美に転送する。
ウンディーネ零は二基の砲門を備えた空中浮遊型自立砲台の先行試作型で、シールドランチャーは盾とビームランチャーを一体化させた装備である。
ウンディーネ零は上空から、片膝をついた亜由美が左腕に付けたシールドランチャを構えてカマキリに集中砲火を浴びせる。
その間に誠はメイリルの傍に走り寄った。
「メイリル!」
「マコト!どうしてここに!?いえ、それよりもそのヴィエルヴィントは?それにあの人は?」
「ごめん、説明は後で!怪我は?動けそう?」
「……ごめん、ちょっとキツイかも」
「田村さん!」
「了解っ!メイリルさんを連れて後に下がって!」
「分かった!メイリル、ちょっとごめん!」
「え?え!?」
動けないメイリルをいわゆるお姫様抱っこした誠が戦線を離脱しようと試みた時だった。
亜由美の攻撃を受け続けていたカマキリが鎌を地面に突き刺した。
それを抱えられながら見ていたメイリルが「危ない!」と叫んだ。
誠は直感的に急停止して後ろに飛びのき、カマキリを視ていた亜由美は体を前に投げ出した。その一瞬後に二人の近くに先ほども見た巨大な火柱が地面を突き破って噴き出した。
亜由美からの攻撃が止んだ隙を狙ってカマキリが大鎌をブーメランのように投げウンディーネ零を真っ二つにして撃墜する
「あ~!それ結構高かったのに!お返しだっ!」
亜由美が魔眼を攻撃に使わなかったのには理由がある。
魔眼の強みは視界内にいる敵に対して一度に攻撃、もしくは状態異常を与える事が出来るという所謂「MAP兵器」のような物である。
しかし当然弱点もある。
魔眼が効果を発揮するまでに少々時間がかかること、その間相手から視線を外さないようにすること、そして魔眼の力は一度に一種しか使えないことである。
魔眼を攻撃に使わずにいたのは喰らうモノの弱点である核の場所を探るためにサーチモードにしていたからだった。
そして攻撃を避けた亜由美は流れるような動作で左腕に付けたシールドランチャーを構え残りのエネルギー全てをチャージした一撃を核がある喉元へ撃ち放った。
正確に喉を捉えた一撃がカマキリの核を露出させるが破壊には至らない。
だが、それは想定済み。この一撃の狙いは核を露出させることだったのだから。
「見えたっ!」
亜由美の魔眼が強く輝き見えない力で核を捉え、そのまま圧力を加えていく。
車を一瞬で押しつぶすほどの圧力を受けて核が軋みヒビが走る。
だが。
「しまった!危ない、離れて!」
「!?」
警告を発したのはメイリルだった。
喰らうモノの胸が開き中から燃え盛る紅蓮の炎が竜巻となって亜由美の体を飲み込んだ。
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