全てを喰らうモノ  8

 「昨日会った?……ああ、もしかして田村さん!?」


 「そうだよ!はぁ~、ショックだなぁ、せっかくカッコよく登場したのに誰か気づいてもらえないなんて」


 「いや、だって、見た目が全然違っているから」


 亜由美の見た目は結構な美少女ではある。しかし、何より彼女の風貌で目をひくのは右目の眼帯なのだ。しかも艶やかな黒髪の一部が虹色に発光しているのを見ては誠が誰だか分からなかったのは仕方のないことだろう。

 もっとも亜由美も本当に傷ついているわけではなく誠の警戒心を和らげるためにあえて大げさに振舞っている面もあった。


 「えっと……。だめだ、聞きたいことが多すぎて何から聞いたらいいか……」


 「ああ、わかるわかる。私もそうだったもん。ならこっちから聞いていい?」


 「……メイリルの事?」


 「そっか。それが異世界からきた人の名前ね。にしても、どうして私が知りたいことがわかったの?」


 「いや、思いついたのは今さっきだよ。あのコインの事を調べていたのも本当に異世界から来た人を捜していたんだなって」


 「誠くんがそのメイリルさんに会ったのはいつ?」


 「昨日。田村さんと別れたすぐ後、少し離れた公園で」


 「ああ、なんというかあらゆる意味で僅差で負けた感じだわ。って落ち込んでいる場合じゃないわね。私たちはこれからメイリルさんを助けに行くけど誠くんはどうする?」


 「一緒に行くよ」


 まるで学校帰りに遊びに誘うかのような気軽さの誘いに誠は一瞬の躊躇もなく返答する。間髪入れない返答を受けた亜由美はおもむろにヤオヨロズを取り出して。


 「ということだけど問題ないかな?」


 「了解だ。こっちも応援が来てくれた」


 空中に投影された画面に野球帽を被った少年が映っていた。やたらと低い声だが見た目は誠たちとそう変わらなそうだが雰囲気は歴戦の戦士のソレである。

 帽子を目深に被って顔は見えないが帽子から僅かに見える赤髪が特徴的だった。他に特徴的なのは亜由美が着ているのと同じコートを着ている点だろうか。


 「この子が山石力也やまいしりきやくんで通称りっくん」


 「その通称は嘘だから信じないでくれ」


 「咲村さんが見つかったんですね!良かった~!」


 「この子はもう会ったでしょ。風原真白かざはらましろちゃんだよ!」


 「さっきは助かったよ、ありがとう」


 誠がそう言うとマシロは両手を左右にブンブンと振って「そんなことありません」と言って俯いてしまった。


 「ほら、誠くんは無事だったんだからそんなに自分を責めないの。ごめんね、ちょっとマシロはナイーブな所があるから」


 誠としては心から感謝しているのだが、どうもマシロという少女はそう受け取ってくれていなさそうだった。とはいえ、相手の詳しい事情も分からないので誠はそれ以上は言及しないことにした。


 「そして、俺が勇者ギルドの代表者、十塚陽太郎だ!」


 最後に顔を出したのは誠よりも少し年上、大学生くらいの青年だった。


 この青年が着ているのはデザインは同じだが色が白を基調にしたコートであった。そのコートの右腕側に三つほど腕章が連なっている。


 そして、この青年もまた髪の色が緑、そして目の色も青みがかった緑色をしていて日本人に多い黒髪と異なっている。


 「あっれー?ボスも来たの?」


 「ああ、来たぞ。うちは年中人手不足なんだ、のんびり椅子にふんぞり返っていられるか!っと、お前は良いんだよ。それより咲村君……で合ってるよな?」


 「は、はい!その……」


 「ああ、聞きたいことは山ほどあるだろうし俺たちも君たちに伝えなくちゃならないことがこれまた沢山あるんだ。だから出来れば二人一緒に済ませたいんだ。言っている意味、分かるよな?」


 「……はい!メイリルは必ず助け出します!」


 「なんというか君は妙に……。いや、やる気があるのはいいことだな、うん。てなわけで協力者をしっかり助けろよ、アユミ」


 「言われなくてもやりますよ~だ!というかボスはこっちに来ないの?」


 「今こっちにワラワラと、おこぼれに与ろうとしてる奴らを迎撃しなくちゃならないんだ。終わったら俺たちもそっちを目指す。でもその前に終わらせちまうだろう?」


 「気楽に言ってくれちゃって~」


 「その代わり外から横槍は入れさせないから安心しろ。それじゃあ幸運を祈る!」


 そういって陽太郎からは通信を切ってしまったようだ。それに続いてリキヤとマシロも互いの健闘を祈って通信を切った。

 静かになったところで亜由美はやれやれと肩を竦めて改めて誠を見る。


 「まぁ人手不足はいつものことだから。多分援軍として期待できるのはマシロぐらいと思ったほうがいいけど覚悟はオーケー?」


 「もちろん!……だけどこれからどこへ向かえば?」


 「それはこれが導いてくれるわ!」


 そう言うが早いが亜由美がいつの間にか握っていた右手の大型ナイフで誠の傍にあった不気味な巨石を一閃した。

 「何を」と誠が問う前に体が下へ引きずられる感覚に誠は言葉を詰まらせる。

 いや、感覚ではない。実際に誠たちがいる周囲が下へと引きずり込まれているのだ。


 「あの石はすごく単純に言うと、この巣を作った元凶がいる場所へ向かうための鍵なのよ。だからこそ自分の子飼いの中でも強いのを番人として置いておいたのよ。もっとも強かった個体が全部倒されて、あの程度のしか置けなかったみたいだけど」


 「じゃあここの主も大分弱っているんじゃ?」


 「そう、大分弱っているはずなんだけど、どうも力を増してきているようなのよ。多分メイリルさんの力を吸収しているだと思う」


 「吸収?そんなはずはないと思うけど……」


 誠は簡単に神性武具の事を亜由美に伝えるが、亜由美の表情はますます曇っていく。


 「なるほどね。なら考えられるのは、喰らうモノがその神様の武器の特性を打ち消す能力を身に付けたってことよね」


 「打ち消すって……」


 「ほんとに厄介なんだけどアイツら諦めるってことをしないのよ。それにメイリルの世界でもきっとその武器を持つ人と何度も戦っていたんでしょ?ここに来て無効化能力を手に入れたとしても不思議じゃないわね。ん、着いたみたい……ってどうしたの、誠くん?」


 「いや、あれ俺の家なんだけど……」


 誠が目にしているのは三歳の時から住んでいる慣れ親しんだ家が横倒しになっている姿だった。

 だが、その姿に感傷を覚えるまえに右手側から五本の火柱が円を描くように回るのが見えた。それはまるでその中心にいる存在を逃さないという意思の表れのようだった。

 それを見た瞬間二人は走り出す。

 そこに倒すべき敵と救うべき人がいると確信して。

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