その名は…… 3
電話を終えた誠の目と興味津々なメイリルの目が合う。
「そんな小さな機械で遠くの人とお話出来ちゃうのか~。やっぱりチキュウの技術はすごいね!で、それはそれとして、誰から、何の話だったの?」
「えっと……」
特に嫉妬とかではなく純粋な興味として聞いているメイリルの笑顔に少し心がチクッと痛む。だが、それも一瞬の、本人すらも気づかないものだった。
「ジテンシャ?ああ、そっか、マコトが乗っていたのか!そういえば置いて来ちゃったね、ごめん!」
「いや、俺もすっかり忘れていたから気にしないでいいよ。あの時はとにかく逃げることが最優先だったし」
「ところで、その連絡をくれた人って女の子?」
「うん、まぁ。ただの同級生だよ。今まであんまり話した事もないんだけどね」
なぜか言い訳がましく早口で喋っている自分を意識しながら誠はそう弁解する。もっともやはりメイリルは気にした様子もないので完全に誠の独り相撲の様相を呈しているのだが。
「え~、何の興味もない男の子にそんな親切にするかな~?」
「いや、うん、どうなんだろう?」
あの田村亜由美が自分に気がある?そんな大それた考えを抱いた結果、顔が熱くなった。
「あはは、そっか~、結構かわいい子なんだね。ちょっと会ってみたいかも」
「そうだね。ちょっと特徴がある子だけどいい人だよ。だから、オレの自転車を預かってくれたのも他意はないよ」
誰に対しても優しい、それでいて掴みどころのない自由人な彼女の事だから、きっと今回の事も気まぐれなのだろうと誠は一瞬でも過度な期待をした自分を戒める。
それに今はこんな話をしている場合じゃない。
「メイリル、そろそろ立てる?歩けるなら一旦俺の家に帰るほうがいいと思うんだけど」
「そうだね。段々暑くなってきたし帰ろうか。マコトも勝手に出てきちゃったんでしょ?」
「そうなんだよな。言い訳考えとかないと」
そこまで外出や帰宅時間に厳格な家ではないが、あまり露骨に拒絶の姿勢を示すことはしたくない。なにせスマホと自転車の修理代を貰わねばならないのだから親の機嫌を損ねるのは下策である。
とりあえず忘れ物はないかと周りを見ると、メイリルもキョロキョロと何かを探す素振りをしていた。
「なにか無くした?」
「ううん、そうじゃなくて誰かに見られている気がしたものだから」
「見られている!?」
「あっ、アギトじゃないよ。なんていうんだろ、ただ見られているだけっていうか。うう~ん、説明が難しいな~」
一応誠も周囲をみてはいるが、人影は見えない。今しがた公園の入り口を通りかかった人が若干不思議そうな顔をして誠を見つめていたのを見てハタと気づく。
「ひょっとして見られていたのは俺じゃないの?ほかの人にはメイリルが見えないんだから俺が一人で喋っているのをみて気味悪がっている人がいるんじゃ?」
そう、メイリルの姿は普通の人には見えない事を誠は完全に失念していた。もしかしたら既に朝の公園でブツブツ独り言を呟く危ない奴と思われ通報されているかもしれない。
「メイリル、すぐにここを離れよう。このままじゃ俺は不審者になって警察のご厄介になるかもしれない」
「ケーサツって言うのがよく分からないけど了解だよ。気のせいかもしれないしね」
立ち上がったメイリルを伴って誠は公園を出て帰路につく。
しかし、その上空にメイリルと同じステルス機能をもった無音のドローンが浮遊していたことに気づくことはなかった。
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