第65話 「私を……恋人にしてください!」

 いつも通りにタイムカードを押して定時上がり。結局午後からは柚にも秋沢にも会うことは無かった。まぁ、ずっと外にいたから当然か。

 今は腰に負担をかけないようにゆっくり歩いて帰っている途中だ。


 結から届いたメッセだと、今はこの街に向かう電車の中にいるらしいから、俺が部屋に帰るくらいには駅に着くかな?


『 迎えに来てもいいんですよ?』


 って言われたけど、それは勘弁だ。何が悲しくて学生の群れの中に行かなきゃならんのよ。あっという間に噂になってしまうのが目に見える様だ。

 ってわけで俺はまっすぐ帰宅……


「晃太さんっ!」


 んを?


「つーかまーえたっ!」

「ぬおっ!」


 そんな声と同時に俺の右腕に柔らかい感触といい匂いが……って結!? あれ? どゆこと?

 電車の中じゃなかったのか?


「え? あれ? え?」

「ふふっ、戸惑ってますね? あのメッセ送った時はもう駅に着いてたんですよ。だから追いかけて来ました! 晃太さんの事だから駅には来ないだろーなー!って思って」

「なぁる。そいえば、あの友達の和華ちゃんは? それに荷物も少ないような?」

「和華ちゃんはお母さんが迎えに来てたので駅でバイバイです。荷物は宅急便で送ったので、明日には着くと思いますよ?」


 結が持ってるのは小さな鞄一つだけ。

 今は荷物を先に送る時代なのね……。俺の頃は必死に担いで歩いて帰ってたのに……。

 いい時代になったもんだ。


「そういうことね。まぁとりあえず元気に帰って来てくれて良かった。おかえり」

「はぅっ……久しぶりの晃太さんスマイル……」

「なんだそりゃ。てか、そんな腕にくっついてて大丈夫か? 部屋まで後少ししかないけど誰か生徒に見られたら……」

「イヤですダメです大丈夫です離しません絶対離しませんだって三日会ってないんですから我慢できません。ぎゅう」

「お、おおぅ……」


 凄い勢いで言ってきたな。そしてさらに強くしがみついてきたな。いやまぁ、嬉しいんだけどさ? そんなに強くだと胸が……ね?


「……久しぶりの感触はどうですか? クラスの女の子とホテルの大浴場入ってる時に、柔らかいね~とか言われたんですよ?」

「な、なんのことかな?」


 見透かされてるぅ~~!

 てか、風呂でなにしてんの!? 何!? 触り合いとかしてんの!? なにその天国!


「……何を想像してるんですか?」

「い、いや、なんでもない。ほら、そろそろアパート着くぞ」

「むぅ、はぐらかしたぁ~~」


 いや、そんな口を膨らませるなよ。可愛いから。


 結局そのままの状態で部屋の前までくる。ちなみに今目の前にあるのは結の部屋のドアだ。そして結は未だに俺の腕にしがみついたまま。


「あー、結? さすがに玄関は別に入ろうか?」

「……イヤです」

「いや、さすがにそれは……」


 俺がそう言いかけた瞬間、結はポケットから部屋の鍵を取り出すと鍵を開ける。そのままドアノブを掴むと、周りをキョロキョロと見渡して、「よしっ!」 っと小さく呟くと一気にドアを開けて俺ごと玄関に入るとすぐにドアを閉めた。


「うん、大丈夫でした!」

「お前なぁ……」

「ちゃんと周り見たから大丈夫ですよ。そして晃太さん、ただいまです」

「まったく……あぁ、おかえり。結」


 ちなみに今の状況は、二人で狭い玄関で向き合って立っている。なんだこれ?


「あー、とりあえず靴脱いで上がろうぜ?」

「そうですね」


 一緒に部屋上がり俺がぐーっと腕を伸ばしながら、どのタイミングで伝えようかなー? って考えながら自分の部屋の方に向かおうとすると、後ろから腕を掴まれた。


「結?」


 声をかけるも返事がない。俯いていて顔も見えない。もう一度声をかけようとすると、いきなり腕を引かれて結のベッドの脇まで連れて行かれ、座るように促されてそのまま座ると結も俺の隣に腰を下ろした。


「結? どうした? なんかあったのか?」

「……………せん」

「ん? なんだって?」

「もう……待てません!」


 結がいきなり顔を上げると俺に抱きついてくる。急な行動に俺も踏ん張りが効かなくてつい後ろに倒れてしまった。

 結果、横になった俺の上に結が乗る感じに。


 え? ちょっと結さん!?


「晃太さんっ!」

「はいっ!?」


 俺と結の目が合う。


 上から垂れてきた結の長く綺麗な髪が俺の顔のすぐ横に落ちた。そして……


「好きです。好き! 大好き! 私を……恋人にしてください!」



 ちょっ……俺から言おうと思ってたのに……。








 ━━いつも読んでくれてありがとうございます。

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