第15話 やっぱモテるんだな
「申し訳ございませんっ!」
俺は今、心から謝罪している。
やっちまった。秋沢と話してるうちにいつの間にか時間が経っていたらしく、朝のうちに済ますはずの仕事が少し押してしまったのだ。
そのことを目の前のヤクザ……いや、校長先生様に謝罪しているのだ。ちなみに今は三時間目と、四時間目の間の休み時間だ。
「真峠よぉ、俺が採用したんだから頼むぜ? 紹介した天音のメンツもあんだからよ?」
「かしこまりましたーっ! つーわけでもういい? 佐々木教頭」
「もう校長だっつーの。敬えやコラ」
そう。この御方が俺を採用してくれた、俺と柚が学生の時の教頭だ。ガチの肉体系である。スーツぴちぴちで相変わらずこえぇよ! なんでこんなのが校長!?
と思ったその時、校長室の外から柚の声がした。
「校長先生? お客様が玄関にお見えになられました」
「はい。わかりました。今から出迎えに行きます。……おぅ、もういいから出ていきな。作業頼むぜ」
この変わり身よ。一気に好好爺に大変身だよ。なんだこいつ。
「へーい」
俺は軽い返事一つして校長室から出ていくと、そこには柚がいて近寄って小声で話しかけてくる。
「あんた何したのよ」
「んーちょっとな。朝、倉庫に生徒が来て話をしてたら作業が少し遅れただけだ」
「生徒って?」
「一年の、秋沢真澄って子。わかるか?」
「あのおっぱい大きい子じゃない。あんたまさか!?」
「まさかってなんだよ。なんもしてねぇよ。昨日返してもらうの忘れてた鍵を持ってきてくれただけだ。そのついでに少し会話しただけだっつーの。つか今は……いや、なんでもない」
「あ……ごめん」
「ん、気にしなくていいよ。じゃ俺は作業に戻るから」
「怪我、しないでね?」
「おうよ」
そのまま廊下に立て掛けておいた脚立を担いで歩きだす。なんか、昔のOL数人が主人公のドラマを思い出すな。
さて、俺も蛍光灯をLEDに変える作業始めますかね。
しかしその為の工具を忘れた! はぁ、取りに行くか……。
倉庫に行くには校庭の脇を通る必要がある。
だからしょうがないのだ。体育をやってる女子の姿が視界に入るのもしょうがないのだ。って、あれは結のクラスか。
この学校の体操着はもちろんブルマなんかじゃなく、ハーフパンツだ。色は赤。上は無難に白いTシャツだ。
それを着た結は、髪をポニーテールにまとめている。家でもたまにやってるけど、似合うな。それを他の男子生徒もチラチラ見ていた。やっぱモテるんだな……。
そしてもう一度結の事を見ると、なんか小さく手を振っとる。
俺が首をかしげてる間にこっちに気付いたみたいだ。やめんか。他の生徒に見られるでしょーが。ただでさえ、昨日一緒に帰ってんのを秋沢に見られてんのに。誰にも言わないとは言ってくれたけどさ。
なので俺は手を振り返さずに軽く笑うだけ。
すると結の近くにいた他の女子生徒が声を上げた。
「え! ちょっと結ちゃん!? 胸押さえてどうしたの!? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ和華ちゃん。ちょっと色々と爆発しそうになっただけだから」
「結ちゃん何を言ってるの? 夏休み明けてからどうしちゃったの!?」
何をしてんだあいつは……。
つーか、近くに先生は……いないか。
やれやれ……。俺はポケットからスマホを出して職員室に電話をする。ちょうどよく、授業がなかった柚に繋がり、事情を説明して電話を切った。
「おい、大丈夫か? 今先生呼んだから端のほうで休んでろ。あーえっと君は友達か? 先生来るまで一緒にいてやってくれ」
「あ、はい!」
「晃太おに……用務員さん、これはそうゆうのじゃなくて……」
「いいから。わかったな?」
「はいぃ……ほぅ……」
少し顔赤いか? 熱は……
「ちょっと失礼」
「ひぅっ!」
「熱はないな。じゃ、俺は行くから」
「ふぇ……」
熱が無いのを確認して、結のおでこから手をはなす。なんだその返事。
まぁ、あとは柚がなんとかするだろう。俺が再び倉庫を目指して歩きだすと、後ろから声がした。
「ねぇ結ちゃん、あの新しい用務員のお兄さんカッコいいね?」
「でしょ? 背も大きいし髪は適当だけど似合ってるし目元もちょっとキツめだけど優しさも感じるし声もイイし……」
「ひいっ! なんか怖いよ結ちゃん!」
お前は何を言ってんだよ……。
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