第10話 「まだ……辛いの?」
飯を食べに来たって言う柚に対して、俺と結は目を合わせてもう一度柚の事を見る。
「なぁ、俺達はもう食べたぞ」
「そんなのわかってるわよ。だから……ほら」
そう言いながら右手に持っていた袋を掲げた。
そういやずっとなんか持ってたな。
「それ、コンビニ弁当か?」
「そのとおーり! ここで食べたら帰るから」
「お前の部屋まで二駅だし、結構な距離あるだろ? なんでわざわざ?」
「だって一人で食べるのもさみしーじゃない?
後はあんた達の様子を見にね 」
「彼氏は?」
「あ、あー彼氏はね、忙しくて中々ね……」
「大変なんだな」
「おねぇちゃん今度紹介してね?」
「え、うん。そのうち……ね。そうだ結、お茶ある? 飲み物忘れちゃって」
「ん、待ってて」
そう言うと結はキッチンへと向かった。
こいつ、普段の飯はどうしてんだ? 結と一緒に住んでた頃は? その辺聞いてなかったな。
それにしても、彼氏の事聞いた時なんか歯切れ悪かった気がするんだが。まさか……もうフラれたのか? 聞いてみるか?
しかし、そう思った時に結が湯呑みを持って戻ってきた。ちゃんと三人分。
まぁ、聞くのはいいか。何かあればそのうち言ってくるだろうしな。
「はい、おねぇちゃん」
「ありがとねー」
「もう、言ってくれればご飯用意したのに」
「ごめんごめん」
姉妹の会話って感じだな。結も自分の姉が相手だと、こんな喋り方になるのか。
思い出してみれば確かに昔はこんな感じだった気もするけども。
まぁ、相手によって変わるのは成長ってことなのかね?
あ、ついでに聞いてみるか。
「なぁ、普段の飯はどうしてんだ? 多分だけど、一緒に住んでた頃はやっぱり結が?」
「ちょっと、やっぱりって何よ! 普段はちゃんと作ってるし、弁当だって自作よ? 今日は作り置きも切らしてたから、たまたまよ」
「晃太おにいちゃん、それは違いますよ? 私の料理はおねぇちゃんから教えて貰ったんですよ?」
「え? まじか? だってお前、高校の時『あーー!』なんだよ?」
「その話はやめて。お願いだから」
「お、おう……」
うん、やめとこう。なんかやばそうだ。よく考えたら俺もあんま話したい内容じゃないしな。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか……」
聞きたそうな顔してんなー。けどこれはごめんなー。
そしてそこからはしばらく姉妹トークが始まる。二人は同じ学校の教師と生徒でもあるから、話題が尽きる事もない。
俺はまだ勤めてから日が浅いせいもあって話に付いていけない為、適当に相槌を打っている。
そしてしばらくしてからの……必殺! 寝たフリ。ゆっくりと座椅子に体重をかけていって、それに合わせて首やスマホを持った腕も下げていく。自然に見せるのがコツだ。気づかれた事はない! 多分。
いや、だってほら! 女同士特有の話題とかついていけるわけないだろ? これは逃げではなく、戦略的撤退なのだよ。OK?
「あれ? 晃太おにいちゃん寝ちゃいました? 」
(いえ、起きてます)
「ありゃ、こりゃ寝ちゃったね。校舎裏の掃除で疲れたかなぁ? 結、遅くなる前に私も帰るね」
「うん、気をつけてね。タクシー呼ぶ?」
「あーうん、お願い。じゃあ私はココ片付けておくから。後、起きちゃうからそっちで電話した方がいいかも? ついでにこいつに何かかけるの持ってきてちょうだい?」
「わかったぁ。あ、その前に……」
パシャパシャパシャパシャ
おい、何の音だよ。
「ふふ、かわいっ♪」
「あんた、何してんのよ……」
「いいでしょ? 別に」
その声が聞こえた後、結が俺の部屋に行く足音が聞こえる。何した!?
つーかやばい、失敗した。
こっち結の部屋じゃねぇか。このままじゃこっちで寝る感じになっちまう。起きるタイミングどうしよう……。
柚が帰った後にトイレに起きるフリでもしてさりげなく起きるか?
と、そんな事を考えてたらすぐ近くに人の気配を感じた。柚か?
……いや、近すぎじゃねーか? 息づかいまで聞こえるんですけど! 肩にお前の髪がかかってるんですけど! 何する気!? 落書きはやめてよ!
「ねぇ晃太……。私は結みたいにはなれないよ……」
……は? 何言ってんだ?
その時、隣から足音が聞こえてくる。結が戻って来たみたいだ。
「おねぇちゃんタクシーすぐ来るって……何してるの?」
「ん? 美少女二人を放って寝てるから化粧でもしてやろうかと思ってね」
「もうっ、やめたげなよ〜」
「ふふ、そうする。じゃ帰るね」
「うん、またね」
玄関の閉まる音がする。そして近づく足音。
それは俺の目の前で止まり、体に薄手の毛布がかけられた後、俺の頭に結の手が触れ、そのまま細い指が俺の髪を軽く撫でていく。
「おねぇちゃん……ホントは何をしようとしたの? ねぇ、晃太おにいちゃん。ん〜ん、晃太さん……まだ……辛いの?」
なっ! なんで……いや、柚が知ってるんだから結が知っててもおかしくはないか……。
その後、起きるタイミングを逃し、しばらく撫でられてるうちに俺の意識は遠のいていった。
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