第92話 風雷の槍
「「「シュウ(さん)、いけぇぇえ!」」」
シュウの下に声が届いた。
魔獣が動きを止めたのは一瞬。だが、その一瞬が全てを分けた。
(コイツ等が作ってくれた隙を、俺がミスる訳にはいかねぇだろ!)
決めてとなる攻撃があるとすれば、やはり『球電』のアビリティだろう。
だがそのままじゃヤツには届かない。
(なら、届くようにすりゃぁいいんだろ!)
シュウは即座に『球電』を発動させる。場所は自分の口内だ。
と同時に風を口内に取り込んで電気と混ぜ合わせる。
放つのは『風咆哮』のアビリティ。そこに『球電』の電気を合わせてぶちかまそうと言うのだ。
(今出来る最善の一手だ! 受け取れ!!)
シュウの口から雄叫びが上がった。
「ウォォォォォン!」
雷を含んだ風が口内で渦を巻き、オドを纏った咆哮となって魔獣へと放たれる。
まるで一本の風雷の槍のようになった咆哮が螺旋を描きながら、収束して魔獣の顔面を穿ち貫いた。
「グロォォォォ………」
ずしゃりと力を使い果たしたシュウが地面に倒れ込んだ。
それに応じる様に魔獣が腕を持ち上げようとする。
だがそこまでだった。
「グォォォォン」
魔獣は断末魔を上げると、風雷に貫かれた顔面から身体を黒い塵へと変えて行き、大気の中へとその全てを散らせていったのだ。
後に地面に残されたのは、斬り落とされたシュウの両腕だけだった。
(や……やった……のか?)
まるで全身の力を全て失ったかの様に、倒れ伏していたシュウはゆっくりと顔を上げる。
「シュウさん!」
「だ、大丈夫?」
クムトら三人が心配そうな表情を浮かべながら駆けてくるのが見える。
(何とか…なったらしいな……)
シュウの意識はそこで途切れた。
「シュウさん!」
「ちょ、ちょっと、シュウは大丈夫なの?」
「二人とも落ち着けい!」
即座にデュスがシュウを抱え上げて様子を見る。
そしてどうやら気を失っただけと分かり、安堵の溜息を漏らした。
「大丈夫じゃ。どうやら力を使い果たして気絶しとるだけの様じゃ」
「全く……無理ばっかしちゃって」
ティルの瞳に涙がうっすらと滲んでいた。
「そうだね。でも…それがシュウさんらしいと言うか……」
「阿呆なんじゃよ。あんな魔獣相手に一人で戦いを挑もうなんぞな」
言葉とは裏腹にデュスの顔には笑みが浮かんでいた。
「いや、本に際どかったのぉ」
暫くして、漸く気付いたシュウに、デュスが茶化す様に声を掛けてくる。
(ったく、逃げろって言ったんだけどな……全くコイツらは)
シュウは苦笑を含んだ顔で言葉を吐いた。
「……逃げろって言ったろ。だが、助かった……礼を言う」
「……うぅーよかったよー」
「全く、シュウさんは何時も無茶しますよね」
「全くじゃ」
「お前らもな」
「取り敢えずじゃ。皆が無事でワシは安心したわい」
「デュス泣きそうだったもんねー」
「何を! ティルはガクブルじゃったろうが」
「そ、そんな事は……」
「まあまあ」
「くっくっくっ」
漸く皆の顔に笑顔が戻る。
何は途もあれ、こうして無事に合流出来た事にシュウは満足していた。
(厄介な奴も退治出来たしな。まぁもうやりたくはねぇけどよ)
そう思いつつも、割と結構そんな相手とばかり戦っているなぁと改めて感じるシュウだった。
クムトによって落ちていた腕も無事集められ、シュウは『結合』と『回復』のアビリティに因り腕を修復させていく。
「まぁ何とかなったな」
「ですね。何とかなったとは言え、もう一度は勘弁願いたいですけど」
「全くじゃ。今、もう一匹来られたら対処の使用が無いぞい」
「そん時は、このティルちゃんが空間方陣でドカーンとやったげるわよ!」
「「いや、無理でしょ(じゃろ)」」
「二人してハモらないでよ!」
「まぁ何にせよだ。取り敢えず少し休ませてくれ」
取り敢えず危険が去った事で漸く一息つけた。
周囲には野獣の気配すら感じられない。
他の野獣達はあの魔獣から逃げていた。それを踏まえれば、まあ当然と言えばそうなのだ。
「で、目的の
ティルがポツリと漏らした言葉で、未だに依頼を完遂出来てない事に気づき、急いで疾風猪を探すのはもう暫くしてからの事だった。
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