第49話 テンプレ


 鳥の鳴き声に導かれるままにシュウ達は森を進んでいた。


「ちゅちゅちゅん」


「チィッチィッ」


 並木道から少し外れた大樹の下で雀らしき野獣が二羽鳴いている。

 どうやら二羽とも未だ幼鳥のようだ。

 巣から落ちたのか、別の野獣に襲われたのか、片羽が羽根に怪我をして飛べなくなったらしい。


「……可哀想」


「おう。助けてやろうぜ」


 幼児達は警戒無く野獣に近づこうとする。


「待たぬか!幼いとはいえ野獣じゃ!警戒無く近づいてはならん!」


「でも……」


 アーチェがデュスの制止の声に反論する。


「別にデュスは近寄るなとは言ってない……注意しろと言ってるんだよ」


 溜め息を吐きながら、シュウはあっという間に幼鳥をその手で抱え上げる。


「チィッ!」


 元気な方の幼鳥が嘴でシュウの腕を突くが、シュウは流れるように片腕だけを硬化し嘴を弾くと、即座に反対の手で捕まえる。


「鬱陶しいわ! 静かにしてろや!」


 シュウの怒声に本能が反応してか、幼鳥は身動きもしなくなる。


「シュウさん……それは余りに……」


「鬼じゃな」


「うっさいわ! あ、あー動くなとは言ってないぞ。ウザかっただけで」


 二人の突っ込みにシュウも自身でフォローをいれる。


「はぁ……取り敢えず、俺の言ってる事は分かるか?」


「ちゅ、ちゅん」


「チュンチュン」


 余程怖かったのか、小さい頭を懸命に振る二羽。


「静かにしてれば手当てはしてやる。嫌なら飛び降りろ」


 シュウの言葉に手の掌に座り込む二羽。


「そうか。なら手当てしてやる。そっちの奴等に渡すから暴れんなよ。もし暴れたら…俺の餌だ。分かったなら一声鳴け」


「ちゅん!」


「チュン!」


「従えおった……遣り方は鬼じゃがな……」


 懸命に鳴く二羽を見てデュスがボソリと呟くのだった。




「うわっ! 可愛いぞこのやろう!」


「チィッ、チィッ」


「うん。かわいい……」


「ちゅんちゅん」


 手当てを受け入れた幼鳥達は幼児達の手の上に優しく包まわれていた。


「まさかのう……恐怖で羽刃雀テラスィトルを使役するとはのう」


「しつこいなジジイ!」


 デュスが言うには、この世界では珍しくない羽刃雀テラスィトルと言う野獣らしい。

 特別害をなす訳でもない為、放置されている野獣らしいが、警戒心は高いらしく普通は人には余り懐かない。


(その割にはあっさりとパル達に懐いてるし、人とのコミュ力は高いよな)


 懐いたのがシュウに因るものとは考えないらしい。

 取り敢えずは目的の得薬草ポリテヘルバの採取場所に移動する事を提案しかけた時、茂みから何やら音が聞こえてきた。


「ほう。どうやら面倒な奴等が来た様じゃの」


 その言葉通り、何やら物々しい格好をした五人組が現れる。

 ニヤニヤと顔を醜悪に歪めながら、シュウ達の行く手を阻むかの様に剣を横に差し出す。


「悪いがここから先は有料だ」


「素直にあり金…いや持ち物全部おいていけ」


 余りに勝手すぎるその言い分にシュウとクムトがボソリと呟いた。


「テンプレだな……」


「テンプレですね……」


 正に異世界の王道パターンである。


「でこういう場合はどうなる?」


「そうですね……デュスさんあたりが……」


「ゴチャゴチャうるせえぞ!」


「ガキが三人に獣人とちんまいおっさんかよ……高く売れればいいがな……」


 クムトの言葉を遮るように、男の一人がドスの効いた声で脅しをかける。

 もう一人は既に報酬について考えているようだ

 それを聞いたデュスの肩が僅かばかり震えていた。

 勿論恐怖で震えている訳ではない。


「ちんまい言うでないわ! この小わっぱどもが! “起動”アクティバ!」


 デュスが叫んだ次の瞬間、手に持つ戦斧に光る刃が現れる。

 デュスがそのまま戦斧を地面に叩きつけると、衝撃波が大地に爪痕を残しながら男達に向かって走り、そのまま男達を天高く吹き飛ばした。


「あぁこうなるのか……」


「……こうなります」


「ふん! “待機”ウェイテ


 デュスの声に反応し光る刃はその存在を無くした。


「出オチだな」


「出オチですね……」


「野盗にもなれん傭兵崩れが……ワシは小さないわ! ドワーフの平均じゃ!」


 デュスの叫びだけがその場に響いたのだった。


 男達を吹き飛ばしたデュスはそのまま幼児達の様子を伺う。


「大丈夫じゃったかの?」


「すっげー! デュスじいちゃんすんげーかっけー!」


「うん。凄かった」


 幼児2人の言葉を聞きデュスは目尻を下げる。


「そうかそうか。格好良かったか。カッカッカ!」


「流石はじいさんだな。それで一つ聞きたいのだが?」


「じいさん言うな。ドワーフの平均寿命はヒューマより長い。ワシはまだ若い方じゃわい……でシュウよ、何が知りたい?」


 幼児達はよくてもシュウだとじいさん呼ばわりは駄目らしい。

 デュスは訂正を1つ入れてからシュウに問う。


「あぁ、さっきあれはスキルなのか?」


「うむ。武技じゃ」


「あの……スキルの中に武技があるんですよね?」


 クムトが片手で軽く挙手しながら質問を投げ掛ける。


「ん? クムトは知らなんだか。スキルには二種類あっての。魔導と武技じゃ。さっきの技は武技じゃな」


「どう違うんですか?」


「ふむ。実際には違いは無いの。有り体に言えば武器を使うて技を出すか、無から現象を導くかの違いじゃな」


(成る程な……なら黒ローブのジジイ達が使っていたのは魔導と言うわけか……)


 ゲーム風に言えば武器スキルと魔法スキルの違いの様なものだろう。


「まあ一纏めにしてスキルと呼ばれておるだけじゃ」


「よく分かった。デュス感謝する」


「ふむ。シュウから感謝と言われるとこう…こそばゆいのう。さ、さあ、さっさと得薬草ポリテヘルバの採取に戻るかの」


「……さっき吹っ飛ばした奴等はいいのか?」


「うむ。あの手の者は吐いて捨てるほど居るわい。死んで良し、生きていてもこの辺じゃもう悪さは出来ぬよ。一々相手をするだけ時間と労力の無駄じゃ」


 あっさりと言うデュスにシュウはこの世界だとそういったものなのだろうと納得したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る