異様な動機
しばらく更新が滞っておりました。
前回でQ・パトリック“Portrait of a Murder”をラストにしてもよかったのですが、最後に少しだけ書いておこうと思います。それは動機の部分です。
ミステリには「異様な動機」ジャンルみたいな外枠がうすらぼんやり存在している気がします。海外ですとエドワード・D・ホックの「長方形の部屋」、国内ですと連城三紀彦「桐の棺」、法月綸太郎「カニバリズム小論」といったあたりが有名な作例でしょうか。
Q・パトリック“Portrait of a Murder”では語り手の「わたし」が真犯人のスイッチを押してしまいます。
ネタばらしをして細かい点に触れます。
【注意喚起】
この先、Q・パトリック作“Portrait of a Murder”の真相・犯人など内容に言及します。未読のかたはご注意ください。
!!!!!!!!!(ネタばらし、ここから)!!!!!!!!!
動機にかかわる部分を引用します。
「学校のやつらに、おやじがおれたちにおやすみのキスをしたなどと告げ口しないと誓え」と彼はだみ声で要求した。
「誓うよ、誓うよ」とわたしは口ごもりながら言った。
「おやじが毎晩おれたちにごったまぜ説教を聞かせるなんてこともだぞ」
わたしは厳粛な誓いをたてて、やっとのことで手を離してもらった。
『世界推理短編傑作集 5』(江戸川乱歩編 創元推理文庫)P.130より
直接、そうだと書かれていないので私の推測になりますが、この事件の一番の動機は「父親が息子である自分にキスをしたことを同級生に目撃された怒り」だと感じます。この感情の矛先が同級生に向かって口封じに向かうのではなく、根源である父親そのものの存在自体の除去という形に向かうのが異常なところ。
!!!!!!!(ネタばらし、ここまで)!!!!!!!!
語りの「わたし」は犯罪の幇助をしてしまったのではないかと過去を思い出すのですが、最大の幇助は犯人の狙い通りに動かされてしまったことではなく、【ここ】(ネタばらし部分)だと感じるのです。
次回からベン・ヘクト“Miracle of the Fifteen Murders”を取り上げます。
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