らっぱ銃と電話室

 個人的には、非常に評価が高い作品です。ただ、今回、記事を書くにあたり、ネットで世評を調べました。高評価も多いですが、トリックに関しては厳しい見方もありました。

 理由のひとつは凶器と思しき「らっぱ銃」というものの姿かたちが、現代の日本人の読者の多くには想像できないことでしょう。銃が身近ではないというのは、いいことだとは思うのですが。

 なんとなく銃口がラッパのように広がったものをイメージして私は読んでいました。これであっているのかどうか確かめるため、ネットで画像を見たのですが、大きくはずれてはいないものの、ちょっと想像とは違ったことを告白しておきます。

 これから読むかたは「らっぱ銃」と、現場になった電話室や当時の電話まわりのこと、そして、ふくろうを画像検索しておいたほうが楽しめるかもしれません。

 作品の謎は「なぜ普通の銃ではなく、わざわざらっぱ銃を使ったのか」と「狭い電話室にいた被害者をどこから犯人は銃撃したのか」の二つです。もちろん、犯人は誰かという大きな謎はあります。「窓のふくろう」がいいのは、フーダニットよりも前述の二つの謎が印象深いこと、そして、二つの謎が犯人当てに繋がっているところです。この程度は書いておいていいと判断します。

 推理小説を読みなれたかたならば、犯人の正体と同様、あるいはそれ以上にさきほど挙げた二点の不可解さがひっかかるはずです。

 以前も書きましたが、紙幅も登場人物も限られた短編では「犯人の意外性」を演出するのは簡単ではありません。短編ミステリが「犯人は誰か」の部分で勝負するならば、犯人そのものの意外性ではなく、犯人が特定できてしまうことの意外性で挑むしかないのかもしれません。

 フーダニット、「犯人は誰か?」ではない別の魅力的な謎を提示して、なおかつ、見事な解答で謎を解体できるか。短編に限らず、謎解きミステリの肝はそのあたりにあるのかもしれません。

 その点、「窓のふくろう」は見事としかいいようがありません。不可解さがちゃんと謎解きの糸口になっています。いや、ほつれではなく、芯そのものともいえるくらい謎と解が近いのです。

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