密室のお手本

 密室のネタだけに焦点が当たることで「ズームドルフ事件」は他のよさや上手さが評価されていないのではないか。それは乱歩のせいではないか。そんな話を前回、書きました。

 補足しますと乱歩がトリック分類表をつくる際にあるタイプの密室トリックの代表的な例として「ズームドルフ事件」のネタを出したことにより、「ズームドルフ事件」といえばあのネタみたいになってしまったことをさして「乱歩のせい」ということです。

 密室ものとして「ズームドルフ事件」が素晴らしいことに(私は)異議はありません。お手本のような作品です。

 天城一『密室犯罪学教程』のようなものがアンソロジーの形でつくられたなら、きっと収録されるはず。


 密室ネタ以外にうまいのは、二人の容疑者がともに自白をするという展開です。しかも、自白の内容の馬鹿馬鹿しさから探偵役は逆に「こいつは犯人ではない」となるところが巧みです。

 容疑者二人を守るのは密室の謎だけでなく、アリバイの存在もあります。目立たない書き方ですが、二人の容疑者にアリバイがある(らしい)ことは真相を知ると大事なポイントになってきます。

 また密室そのものが持つ神秘性のようなものが神学的なテーマと響きあうようで、これは決してトリックだけの密室ではないことも見逃せません。

 物語と密室が錠前と鍵のようにセットになっていることは触れておくべきでしょう。

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