旧版と新版

  三作品を読み進めてきたのですが、大事な問題に気付きました。この連載は【世界短編傑作集を読む】です。これは取り上げる創元推理文庫のアンソロジーが『世界短編傑作集』だからです。ミステリの基礎教養的な存在なのですが、最近、新しいバージョンが出ました。シリーズのタイトルも変わっていて『世界」推理短編傑作集』と【推理】の文字が加わりました。

 これは当然の配慮で、これがないとSFもファンタジーも恋愛ものも歴史ものも含めたうえでの【世界短編傑作集】とも受け取られてしまいます。もしかすると、広く文学について語る連載だと思ってのぞいてみたら、ミステリの話ばかりで戸惑ったというかたもいらっしゃるかもしれません。

 ひとまず【推理】のつくほうを新版、つかないほうを旧版ということにして、話を進めます。実は新版と旧版では収録作が違います。新版はポオの「盗まれた手紙」から始まっています。この連載で最初の収録作品である「人を呪わば」がどうのと書いていますが、新版を読んだかたは「あれ」となることでしょう。

 こういうことが起きるのは、乱歩が選んだものの、創元推理文庫で独立した短編集として出ている、あるいは出る予定のものは旧版では外されているという事情があります。そのため、旧版の一巻の最後の「放心家組合」は新版では二巻の最初になっているというようなことが起きます。

 手元に旧版が五冊全てあるはずなので、それを掘り出して連載を進める予定でした。ところが一巻しか見つからない。この企画を始めた背景には新版が出たことがあります。最近、ミステリに興味をもったかたにも海外の古典を読んでもらうには新版の出版はいい機会だと思ったのです。

 作品の入れ替えや新訳もあり、現代の読者がより世界の探偵小説の古典を理解するには新訳のほうが親切でしょう。いい機会ですので、新バージョン五冊を手元に揃えて、新版を元に語っていくというように方針を変更しようと思います。

 とはいえ、まだ一巻の半分も語っていませんので、「放心家組合」まではひとまず旧版をベースにし、新版に収録されている「盗まれた手紙と」新訳の「安全マッチ」は後で触れることにします。

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