正常な女

青山えむ

第1話 出会い

 最初は怖い人かと思っていました。

 だって笑わないから。

 けれども後々あとあと解りました。

 ただ単にシャイな人なんだって。


 浅井あさいさんと初めて会ったのは市内のライブハウスです。

 私はちょうど東京からこちらに越してきたばかりでした。

 歩道にはまだ少し、雪が残っていました。

 私はバンドが好きでした。東京にいる時もたくさんライブを見に行っていました。

 地方のバンドに興味がありました。転勤になった時は喜びました。


 引っ越しも仕事も落ち着いた頃、ライブハウスに行きました。

 そこで浅井さんに出会いました。

 浅井さんは五人組のバンドで、キーボードを弾いていました。

 私の好きな音楽でした。

 いきなりこんなレベルの高いバンドに出会えるなんて驚きました。

 もっと他に好きなバンドに出会えるかと思い、私はほぼ毎週ライブハウスに通いました。


 毎週現れる私に興味を持ったのでしょうか。

 それとも寒さに慣れず、大げさに厚着をしている私が目についたのでしょうか。

 浅井さんはある日、私に話しかけてくれました。

 初めて浅井さんと話した時、浅井さんは酔っ払っていました。

 片手にはビールを持っていました。

 足元がふらついてろれつが回らない浅井さんを見て「本当にあのバンドの人だろうか」と思ったほどです。

 浅井さんから声をかけてきたのに、浅井さんは全然笑いませんでした。

 

 けれども打ち解けてしまえばとても愉しい人だと解りました。

 会話が盛り上がって行き過ぎた発言をした若い子を叱ったり、その後フォローしていたりとても気遣いのある人でした。

 浅井さんは皆に慕われていました。

 浅井さんと二人きりで話す時間はとても短いです。

 誰かと浅井さんが話をしていると、そこに誰かが加わるからです。

 皆浅井さんが好きでした。

 私は浅井さんを見つめる時間が増えていきました。



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